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「結構長かったな……」
「そうね……。もう疲れた」
「なぁ、良かったらメシでも食いに行かね?」
「……」
「おーい? 真琴ちゃーん?」
ふざけた様子で恭平は真琴の顔を覗き込む。
「行かない」
真琴はじとりと睨みながら返事した。
「ウザ。相変わらず可愛くねえ」
「私はまだアンタに言われたこと、怒ってるんだから」
「助けてやったのに」
「痴漢のことは感謝してる。でも、それとこれとは別!」
「はいはい。で、お前彼氏とかいんの?」
「ノーコメント」
「ホンット可愛くねえな!? ま、いいや。家まで送って行ってやる」
「別に大丈夫だし」
「じゃあせめて最寄駅までは送らせろ! もう今日あったこと忘れたのかよ!? お前って可愛くない上にバカなのか!?」
「バカはどっちよ! 可愛くない可愛くないうるさいっての! ほんといつも一言多い! 恭平の方が絶対バカ!」
二人は高校時代に戻ったかのように喧嘩を始めた。
無意識だが、付き合っていた時の呼び方に戻っていることに真琴自身気がついていない。
あの時代もいつもこんな調子で喧嘩が絶えなかったことを思い出す。恭平と居ると、いつもこんな調子になってしまう。
〝あの時〟だって、自分を助けてくれて、カッコいいと思ったから付き合ったのに――……。
恭平が意地っ張りで素直じゃないことはわかっているが、真琴の性分からして、言われっぱなしで全てを許容することは出来なかった。
二人は結局似た者同士なのだった。
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