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痴漢騒動のせいで、降りる予定のない駅で途中下車してしまっていた真琴は再び電車に乗りこみ、帰るべき家へと向かう。
横に座る恭平はぶすっとした表情で何も話さない。
大丈夫だと言っているのにも関わらず、結局恭平は駅の改札まで着いてきた。
お互いに小言を言い合いながら改札に着くと、改札の向こう側に、壁に背をつけてこちらをじっと見据えている奏の姿が見えた。
こちらが向こうに気がつくとバッチリと目が合ってしまい、ドキリと心臓が痛くなる感覚がした。
真琴の姿を確認した奏は早歩きでこちらに近づいて来る。
「真琴。あまりにも遅いから、心配したよ」
「ご、ごめん……」
奏の声は低く、冷たい印象だった。
――怒っているのだろうか。一言遅くなる連絡を入れるべきだったと反省する。
しかし、遅くなったことに対して怒っているというより、隣にいる見慣れない男に対して警戒心を露わにしているという方が正しかった。
恭平はこの冷えきった空気などお構いなしに二人の間に口を挟む。
「お前、コイツの彼氏? だったら送り迎えくらいしてやれよ」
「……」
「コイツ、今日痴漢にあってた。しかも三日連続だったらしい」
「……本当に?」
奏は困惑した表情で真琴に視線を向け、真琴は伏し目がちに、無言で小さく頷く。
「しかも犯人は逃亡しやがった。まだ捕まってねえ」
「警察には?」
「通報して事情聴取は受けた」
淡々と奏と恭平は言葉を交わし、今日あった出来事の情報を共有する。
その間、真琴は視線を下に向けたまま俯いていた。
こういった出来事を奏が知れば、凄く心配するに違いない。
真琴は他人に弱みを見せるのが苦手で、辛いことがあっても自分からは言わない性分だったせいで、奏は今回の出来事を恭平から初めて聞くはめになってしまった。
真琴からではなく、第三者から聞かされることに対してどう感じるだろうか。それを思うと胸が痛い。
「コイツ、強がってばっかで不器用なんだから、男の方が察してやんねーと」
まさか恭平からそんな言葉が出てくるとは思わなくて、真琴は目を見開く。
正直、どの口が言うのだと思ったりもしたが、自ら被害を告白することができなかった真琴にとっては、とても救われる一言だった。
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