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「そうでしたか。ご忠告痛み入ります。この度はご迷惑をおかけいたしました」
奏は人当たりの良い笑顔のまま恭平に告げる。
真琴は、それが心の内では一切笑っていない時のものだということを知っている。
彼が今何を考えているのかなど、真琴には理解できなくて胸の中が重く、ざわつく感じがする。
「帰ろう。真琴、おいで」
真琴は小さく頷くと、恭平の方を一瞥し、「今日はありがとう」と改めてお礼を伝えた。
そして、冷たい笑顔を浮かべたままの奏の方へと歩み寄る。
奏はそばに来た真琴の背に手を回し、一緒に歩み始め、二人はそのまま駅を出ていく。
他の男性と居る所を奏に見られると、いつもこんな終わり方になってしまう。
嫉妬してくれることに関しては嬉しさを感じるものの、相手のことを考えると申し訳なくて居た堪れない気持ちにもなって後味が悪い。
当の本人である恭平は、そういうことは一切気にしなさそうだけども……。
困ったものだと考えながら無言で歩いていると、隣にいる奏が心配そうな声色で優しく声をかけてきた。
「それで、大丈夫だったの?」
「え、あ、うん……大丈夫」
「良かった……。さっきの人は知り合い? 初対面な感じでは無かったよね?」
真琴が高校生になった頃、奏は大学生となり上京していたため、高校時代の同級生のことはほとんど知らないはずだ。
ここで高校時代の同級生だ、と答えるのは簡単だが、今後のことを考えると隠し事はしたくないと思い、真琴は正直に白状することにした。
「高校時代の……元彼」
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