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ぼそりと呟いた真琴の言葉に、奏は足を止めて、眉間に皺を寄せ、目頭を指で抑えた。
――これはショックを受けている、と直感する。
でも、本当に偶然だし、やましいことは何もないのでしょうがない。
奏のショックを和らげるために、真琴はすかさずフォローの言葉を入れた。
「でも本当に偶然で……アイツにはもう何の感情もないから! だから……」
「真琴、車を買おうか」
「はい?」
「毎日送迎するために必要だ」
「いや、大袈裟すぎるでしょ! そんな大きい買い物をさせるわけにはいかないって! ダメ!」
「じゃあ毎日タクシーに乗って行こう。金銭面は気にしなくて良いから」
「ついに金持ちであることを開き直ってきたわね…!? そんな生活してたらこっちの感覚がおかしくなっちゃうから絶対ダメ!!」
「だって……」
「今まで通り、電車で行けば良いでしょ! その……、毎日一緒に」
真琴は頬を赤らめながらチラリと奏の方を見る。
通常、この時間帯の夜道では真琴の頬の赤らみなど見えない筈なのに、街灯が多く明るいこの住宅街では、ハッキリと真琴の顔色が映し出されていた。
「奏が守ってくれるんでしょ」
真琴は自分の手をそっと奏の手に添えた。
それが今の真琴にできる、精一杯の親愛の証だった。
「約束するよ。……これ以上、変な虫が付かないようにね」
奏は真琴の手をぎゅっと握って、にっこりと微笑んだ。
その笑顔は何かを企んでいるような怪しい笑みだったが、先程までの冷たさはなく、奏らしい表情だった。
やっといつも通りの表情を見せてくれたことに安堵し、真琴の表情も自然と和らいだ。
そして、二人は手を繋いだまま、二人が帰るべき家へと歩みだした。
【第八話 終わり】
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