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翌日、奏は珍しく自分から菜知に声をかけ、昼食を共にしていた。
「君から『話を聞いてほしい』なんて真剣な顔で言われた時にはどうしようかと思ったけど、あまりにもくだらなすぎて驚きだね。前回同様、真琴の自由意志に反することをするのは賛成できない」
「僕は真剣なんだけど。……前みたいに怒らせたくなかったから、今回は何も言ってない」
「真琴が君の恋人だったとしても、所有物ではないんだ。自由にさせるのが一番さ」
「それはわかっているけれど……本当言うと、これぐらいのものでないと安心できない」
奏は菜知にスマホを差し出す。そこに映されていたのは水着の写真なのだが、昨日提案した洋服のような水着を通り越して、もはやウェットスーツに近いものだった。
「これを真琴が……? 全然可愛くないね。却下だ」
「菜知、こっそり偵察に行ってくれたりしない?」
「しない。そもそも、私が行くとより周囲の注目を集めてしまうと思わないかい?」
菜知は自信満々に言う。
彼女は客観的に自分の容姿を見た時、それが周囲の人々にとって魅力的であることを自覚している。
「はぁ……」
奏は諦めた様子で、大きく溜息をつく。
完璧超人らしからぬ奏の様子を見て、菜知の遊び心に火がついたようで、意地の悪い表情を浮かべた。
「前に泊まりに来た時に見たんだけど……真琴って、私より胸が大きかったよ」
「知ってる」
「……ああ、そう。」
菜知の悪戯は奏には刺さらず不発に終わる。
不貞腐れたように、力なく奏が即答すると、菜知はどうしようもないものを見るような呆れた表情で彼を眺めた。
別に菜知の胸のサイズが小さいわけではなかった。
小柄なのであまり目立たないが、真琴の胸のサイズは世間一般には大きい部類に入るので、尚更世間に晒して欲しくなかったのだ。
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