モヤモヤBluesky (降りつもる)

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海音の父親のことは、うっすら覚えている。 母が再婚することになった。 僕たちはその頃、まだ保育園に通っていた。 新しいお父さんが出来る! と思っていた矢先、……海音の父親はあっけなく、交通事故で亡くなってしまった。 母のお腹には既に海音がいた。 海音の父親の両親は既に他界していて、親族は海音の父親の姉家族のみ……お腹の子は青木家で引き取ります、そちらとはもうこれきりで、ということを了承してもらって、縁はないという。 とにかく、だ。 僕の周りには、女しかいないのだ。 おかげさまで、女の人は月に一度とてもしんどくなって機嫌が悪くなるだとか、そんな知識まで知らずに身についてしまった。 家事がまるっきり駄目な母とは違って、僕は祖母に鍛えられ、自然と家の中の家事全般は僕が行うようになった。 小学校の高学年になった頃、祖母はもう任せられると思ったのか、仕事に復帰した。 祖母は元々看護師だった。 今では普通に夜勤もしている。 僕たちは『ばあちゃん』と呼ぶが、まだ五十代半ばだ。 『すーちゃんが家の事をしっかりしてくれるから助かるねぇ』 『さっすがお兄ちゃん、頼りになるよ』 祖母は褒めてくれるが、勿論嬉しいが、なにか腑に落ちない。 僕は……。 僕は思春期真っ只中の男の子だが、自室なんてない。 三人共同の子供部屋は、女の子グッズで溢れている。 タンスの上には、いつだったかの誕生日にお揃いで買ってもらったぬいぐるみが飾られている。 真凜のがピンクで僕のが水色のテディベアだ。 可愛いとは思う、だけど僕は……! クラスの男子には、『もやしっ子のヒョロヒョロ野郎』だとか、『あの真凛ちゃんの兄貴だなんて有り得ない』だとか。 もっとストレートに恥ずかしい言葉をぶつけられたこともある。 そして、反論一つ出来ないのだ。 いじめられてる訳ではないけれど……なんたって中学校のマドンナの兄貴だから。 ただ、言い返すことも出来ず俯いてしまうだけの自分自身の不甲斐なさが、たまらなく辛い。 それというのもやはり、男なのに名前はスカイなのに、ちっともスカッとしていないからだろう。 もう、こんな名前なんか大嫌いだ。 この悶々自体は名前だけのせいでもないのだろうけど……。
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