モヤモヤBluesky (降りつもる)

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「君、名前は……?」 思わず聞いてしまった。 個人情報だから駄目かなと思ったが、彼はニッコリ笑って答えてくれた。 「山田 大地。 お兄さんは青木から聞いたけど、澄海ってんですってね。 かっけぇ」 「かっけぇって……そう思う? この名前、不便が多いよ……?」 自嘲気味に笑うと、彼は強く首を横に振った。 「だって、空でもあり海でもあるって……なんか凄いっす! 二兎追うものはってヤツ?」 「あ、駄目じゃんダイちゃん、一兎も得ず、でどっちでもないことになってる! それ言うんなら一挙両得、なんじゃないの?」 「そっかぁ、はははー」 二人が笑いあったので、話の区切りとして席を立とうとした。 すると彼は、早口で言ってきた。 「あ、あの、……俺のお父さん。松山千春の『大空と大地の中で』の曲が大好きなんっす。 俺の名前はそこからとったって。 だから、俺……!」 いや、僕は松山千春もその曲も知らないし……しかし、引っかかった。 空……大地……? そして、僕よりも海音が先に彼の言いたいことを察した。 「なるほど……それでダイちゃん、私の誘いにのったんだ。 すーちゃんに会ってみたかった、と?」 「……ごめん、青木。 でも、女の子の家に興味があったってのも本当……」 「よっしすーちゃん。 今なら母さんもいない、ばあちゃんは夜勤。 ……男を見せるのはいつ? 今でしょ!」 言いながら、海音はポテトチップスの袋とチョコチップクッキーの箱を僕に押し付けてきた。 「おやつはあっちで食べてきなよ。 本当にお父さんかもしれないよ?」 えぇえぇえ……しかし彼を見ると、やっぱりニッコリ笑って僕の手を引いてきた。 男を見せるなら今でしょ、海音の言葉が頭の中で幾度となくリフレインしたので、僕は仕方なく頷いた。 「分かったよ……でも、それならこんな市販のポテトチップスとチョコチップクッキーなんかじゃ駄目だ。 えぇと、ばあちゃんがお裾分けで貰ったバームクーヘン、たしかまだあっただろ、あと、ほらなんかいいとこの生湯葉と生麩があったじゃないか、あれとか」 「いや……もう、出来たら手ブラで来て欲しいっす……」
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