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「まあ、何となく分かるけど。課長以外の上司や同僚もブラック思考だし」
「でもね、おにいしゃんは一番まっしろけっけ! だから、おにいしゃんが心配! ここにいたら心がしおしおになっちゃう」
「しおしおって……」
「おにいしゃんはもっと幸せにならないと!」
「君……」
あんなひどい会社にいても心の色は変わってないんだな、俺。
「チューリップ、捨てられちゃうの?」
「あ、そうだ! 俺が持って帰るよ。でも、もうあんな事したらだめだぞ。魔法禁止」
「チューリップみんなたしゅかる!?」
「すぐに廃棄を頼まれてた人の所に行くよ」
「やっぱりおにいしゃんはまっしろけっけ! こんな場所にいて良い人じゃないよ!」
「えっ?」
「たーくしゃんこんな悪い奴らばかりの所で頑張ってておにいしゃんはえらいよ!」
偉いなんて初めて言われた。
この会社にいて褒められた事は一度たりともない。
チューリップの廃棄を頼まれた女性社員に話しかけると、彼女も元々廃棄するのは気が引けていたと答えた。
彼女と俺でチューリップを分けて持ち帰る事にした。
「またチューリップが増えたな」
でも、チューリップを見ると心は穏やかになる。
彼と話している時のように。
課長がそんな花廃棄してしまえと荒れているのを見た瞬間、何で俺は今までこんな人の心の無い人間に頭を下げてばかりいたんだろうと今更ながら思った。
もしかしたら、俺もずっと普通じゃなくなっていたのかもしれない。
毎日暴言を吐かれる事も、やたら残業を強いられる事も正しく無い事だと普通ならすぐ分かる事なのに。
こんな所にいるべき人間じゃ無いと言った彼の言葉がずっと頭に残っている。
予想通り、22時過ぎまで残業となってしまった。
「おにいしゃん、おちゅかれしゃまっ!」
「ありがとうな。悪いな、遅くなって」
会社を出ると人の姿になったチューリップと駅に向かって歩く。
「おにいしゃん、いっぱいお仕事頑張ってしゅごい!」
「えっ?」
「でも、このままだと長生きできなくなっちゃう」
「まあ、寿命はとっくに縮んでる気はするが」
「おにいしゃんといっぱいいっぱい一緒いたい! いっぱい笑ってるおにいしゃんが良い!」
彼は小さな手で俺の手を取り、懇願する。
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