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あれからお店にジュンさんは一切来なくなった。
ため息ばかりつく私を見兼ねて大地君が健太さんに聞いてくれたけど、ただ忙しいだけって。
あの日、家に帰ってから樹は何も言ってこなかった。
私の感情の変化にどこまで気づいたのかは分からないけど、やり過ぎたとは思ったのかもしれない。
私がジュンさんと会っていたことを樹は知らないし。
私の部屋の机の上にはジュンさんに添削されるのを待っている課題が積まれていた。
会わなければ会わないほど頭に浮かぶのは優しいふわふわの笑顔。
毎日お店で会っていた時より今の方が彼の事を考えてる時間が多いかもしれない。
連絡先も知らない私は連絡を取ることもできなかった。
…会いたい。
今なら素直にそう思える。
颯花の言う通り理屈を並べてずっと誤魔化してきたけど、私も実はこの感情が何なのか気付いている。
初めて会った時に目を奪われたのも。
綿あめみたいなふわふわの笑顔を見ると心が温かくなるのも。
樹との仲を誤解されたくないと思うのも。
視線が合わさるだけでドキドキするのも。
ちょっとした一言、行動で顔が熱くなるのも。
全て私が彼を意識してるから。
「葵……どうしたの?」
ジュンさんと会わなくなって1週間。
いつものランチタイムに前に座る颯花は眉を下げ心配そうに私を見ている。
気付いたら涙がポロポロ流れていた。
突然泣き出した私に颯花は困惑している。
「颯花」
「どうしたの?」
会えなくなって自分の気持ちに気づくなんて馬鹿みたい。
一度開いてしまった心の扉は簡単に締めることができなくて、堰を切ったように気持ちが溢れ出てきてしまう。
「私…ジュンさんが好き」
こんなに焦がれる思いをしたのは生まれて初めてかもしれない。
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