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「キャー! 蘭かっこいい!」
大学の校門を入ってすぐのところで、私は真央の黄色い歓声に迎えられた。
「ありがと。真央もかわいいよ」
今日は私たちの卒業式。
辺りは、華やかな袴姿の女子学生で埋め尽くされている。
「私、蘭と結婚する」
真央はバカなことを言いながら、腕を絡めてくる。
私は、子供の頃から女の子らしい華やかな服装が苦手。
だから、今日も、瑠璃紺の色無地に紫の袴という渋めの選択をした。
髪型も、周りはみんな華やかに花やリボンを飾っているのに、私はくノ一をイメージして高めのポニーテールに黒と金の組紐を結んだだけ。
普段からそうだから、身長170㎝で低音ボイスというのも手伝って、私は、女子大のここでは、常に今のように男性扱いをされる。
でも、女性扱いをされても居心地が悪いから、このままでいいんだけど。
私たちは、卒業式までの時間、正門前や学内の思い出の場所で写真を撮る。
3月で青空は広がっているけれど、今日は肌寒く、コートを着たい気分。
だから、今朝、私が父の羽織を羽織ろうとしたら、母に止められた。
これ以上、男っぽくするなって。
うちは呉服屋だから、着物だけは売るほどあるし、私も子供の頃から、事あるごとに着せられていたから着慣れている。
そうして、1時間後、卒業式が始まった。
講堂は外とは違い、暖房が効いていて暖かい。
緊張するはずの卒業式、なぜか私は不意に睡魔に襲われた。
寝ちゃいけないのは分かってる。
でも……
それはほんの一瞬の事だったと思う。
一瞬うつらうつらしたものの、すぐにハッとした。
が、目を開けると、見知らぬ光景が広がっている。
ここ、どこ?
長閑な田園風景。
私は木を背もたれにして、草むらに座っていた。
あ、袴が汚れちゃう!
私は慌てて立ち上がり、自分のお尻についた枯れ草などを払う。
振り返ると、後は雑木林。
えっと、これ、どうすればいいの?
立ち上がったものの、見たことのない光景に戸惑いを隠せない。
とりあえず、大学に戻らなきゃ。
なぜここにいるのか分からないまま、私は目の前のそれなりに道幅はあるのに舗装されていない畦道を歩き始めた。
大通りまで出たら、タクシーを拾えばいい。
けれど、どこまで歩いても舗装された道に出ない。
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