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旅立ち
山の端が白みはじめる頃、トワは二人乗りの反重力バイクに荷物を詰み込んだ。
足元には、荷造りに疲れた狐のセンセイがへたり込んでいる。身体はトワより大きいのに、意外と非力だ。
この人と二人旅で本当に大丈夫だろうか。
トワは何だか不安になってきた。
「センセイ。そういえば、ぼく、あなたのこと何も知りませんでした。どうして狐のお面を被ってるんですか」
「そこ気になっちゃう? うーん、私は人一倍、恥ずかしがり屋でね。誰にも顔を見られたくないのさ」
「……冗談ですよね?」
「冗談だけど、謎は多いほうが楽しいじゃないか」
上手くかわされた気がする。
「もうひとつ、質問してもいいですか」
「どうぞ」
「センセイは、男ですか、女ですか」
鼻から上を隠しているし、中性的な声と身体つき、性別が分からない。
「さぁ、トワはどっちだと思う? 好きに想像するといい。想像することは、きみを豊かにするよ」
センセイはさらに続けた。
「きみはこれから、たくさん苦悩するだろうね。温室の外へ出なければよかったと、後悔する日が来るかも。きみ自身の植物の性質のせいでね。だけど忘れないで欲しい。今この瞬間の、きみの気持ちを」
それはトワの拠り所になるから、とセンセイは言った。
狐のお面が、にっこり笑っている。
なるほど、センセイとの二人旅、不安だと思っていたけれど、訂正しよう。
狐のセンセイとの旅立ちは、自分とって、きっとかけがえのないものになる。
そう考えながら、トワは、朝の光で、少しずつ明らかになる世界を見つめた。
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