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世界のしくみ
トワよりひとつ年上のカテンたちが、母なる大柳から収穫してきたのは、玉虫の実だ。
名のとおり玉虫色をした果実で、外側は白く長い毛に包まれている。
ひと抱えほどもあるそれは、幼い身体で運ぶには骨が折れるため、半自動トロッコに積んで運搬しなければならない。
実の収穫作業は当番制で、最年長者が担う。
何よりも優先すべき、重要な仕事だ。
なぜなら、玉虫の実から、トワたちのような特異人種が生まれるから。
生まれた特異人種は、温室の向こうの世界から来る、栽培員が面倒を見る。
4歳までは幼年期。よちよち歩きの特異人種たちは、育苗施設に囲われて、栽培員たちが繭で包むように大事に育ててくれる。この時期、彼らはほとんど施設の外に出ない。
5歳から10歳までを少年期と言い、育苗施設を出て、この温室で過ごす。
温室では日光浴して栄養を蓄えたり、丸木のアスレチックで遊んだり、図書館で絵本を借りて読んだりする。
本が読めるのは、この少年期に、簡単な読み書きを教わるからだ。世界の成り立ちを知り、自分たちの存在意義を十分に理解するためだという。
11歳が最年長となるが、身体的な特徴をいえば少年期の子どもたちとたいして変わらない。
最年長となった特異人種は、定められた節目の日を迎えると、母なる大柳の一部となる。枝葉を伸ばし、ヒトから樹木へと変化を遂げる。
この不思議な成長過程から、特異人種は、人間と植物の間の子と呼ばれた。
大柳になるために通過する儀式のことを、トワはよく知らない。
芽生えの儀に立ち会えるのは、栽培員だけと決まっていたから。
トワとエイカは今年で10歳。
来たるべき日まで、まだ1年以上ある。
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