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スマホのニュースの中で伊織のしらない人との結婚を番組共演者から祝ってもらってる桜子ちゃんは、伊織が小学生になった頃から名字がかわる度に会いに来てくれるようになった。ついでに生活に不便はないかと忙しい中、声をかけに来てくれる。
……だけど伊織はそんな桜子ちゃんの旦那さんに媒体は色々あれど、液晶越しにしかお目にかかったことがない。直接話すなんて勿論ない。
厄介者の伊織が居ないからこそ成り立つ家族がそこにあるって知っている。
だから仕方がないと伊織は
わかっている。
沈む心のままニュースをそれとなく流し見ていれば桜子ちゃんの結婚ニュースの2つ下に出てきた最近話題の連続Ω誘拐事件の記事に視線が止まった。
見たくないのに指先は記事をタップして、その内容に目を通せば通す程、厄介者であった伊織にさらなる絶望を与えたあの事件との相似感に鳥肌が立つ。
今はもう記憶の中だけにしか残らない香りに心が軋む。
赤色灯が照らす中、離れた香りを思い出した伊織は震えだした指先でスマホの画面を消すと、包まっていた毛布に静かに顔を埋めた。
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