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鈴木海が住み込みで私の専属家政夫になることになり、今日は初日。
寝る時間になったのだが、ベッドは1つしかない。
まあ、キングサイズベッドだから2人でも大丈夫か。
「一緒に寝るか?」
「うん」
俺はソファでいいよ、とか思わないんだな。
私は鈴木海と一緒にベッドで寝た。
翌朝。
海の作った朝食を食べながらテレビを見ている。
「あれ?」
「どうかしたか」
「いや、4つしか出ないから」
「何が」
「血液型」
テレビでやっている血液型占いを指差す海。
「そうだな」
血液型は4つだし。
「血液型は6種類あるのに」
「あ?」
「A、B、O、AB、AO、BO」
「……ちなみに、海は何型なんだ」
「BO」
「海はBOなのか」
「うん」
まてまて、血液型はA、B、O、ABの4種類だったよな? もしかして、本当にAO、BOってあるのか?
まあ、いいか。
「そうか、私はAだ」
「知ってる」
「そうか」
「うん」
そうだった、こいつは私のストーカーだったな。
私とあわよくば結婚できるかと思って、私と同じ大学の同じ学部に入ったのだった。
私は東京オリンピックの空手で銀メダリスト。
プロフィールは出ているだろうし、血液型も知られているのかもな。
しかし、海は「ほとんど完全記憶」らしいが、間違った事もほとんど完全記憶してしまうらしいな。
100覚えたら98は忘れないらしいが、100のうちの2つくらいは記憶が変わってしまうらしい。
それを本人は完全に本当だと思っているから面倒だ。
本人は困らないのかもしれないが。
「海」
「うん」
こいつみたいな、面倒そうな奴に友人はいるのか?
「友人はいるのか」
「欲しくないけど」
「いや、今現在、友人は何人だ」
「いないけど」
「そうか」
「うん」
「私もいないけどな」
「知ってる」
「友人とか面倒だしな」
「うん」
そう、私は友人なんていらない女なのだ。
どうやら、海も同じタイプらしいな。
海に友人が100人とかいて、毎日のように我が家に招待とかされたら婚約破棄するしかなかった。
「さて、海の荷物を運ぶか」
「うん」
海は親父とアパートで二人暮しだったが、その父親が女と逃げたらしい。
生活費や海の貯金や海の大学費用も全て持ち逃げしたらしい。
ひどい親もいるもんだ。
私なんか、祖父が6億円も私に遺産を残してくれたというのに。相続税で半分取られて3億円になったが。
まあ、3億もあれば人生100歳まで安心だろう。
何度も言うよ。爺さん、ありがとう。
言うのはタダだしな。何回でも言える。
海の荷物は少ない。
引っ越し業者に依頼するまでもない。
段ボールにまとめて、宅配業者を呼ぶことにした。
段ボール5つだし。一万円もかからない。
「おい」
「ん?」
「宅配業者を呼べよ」
「俺が?」
「お前の荷物だろ」
「電話機がないけど、どうしよう」
「スマホは」
「持ってない」
「なるほど」
今どき、スマホを持ってない大学生が存在するとは。
仕方ない。
スマホで検索して宅配業者に電話した。
30分後に来てくれるらしい。
「30分あるから私は筋トレする」
「うん」
私は腕立て伏せを始めた。
それをじっと見る海。
「おい」
「ん?」
「お前もやるんだよ」
「俺も?」
「ああ」
「どうして」
「暇があるなら筋トレしろ」
「うん」
海も腕立て伏せを始めた。
一応、素直なのは良いことだ。
「しんどかったら」
「止めていい?」
「休み休みやれ」
「うん」
そんな事をしていたら、宅配業者がやって来た。
荷物を車へ運び、料金はスマホ決済で済ませた。
便利な世の中になったものだ。18年しか生きてないが。
「さて、大学へ行ってみるか」
「うん」
しかし、電車での移動は目立つな。
私は女で身長185センチ。オリンピック銀メダリストだから、まあまあ知名度もあるし。
一緒にいる鈴木海は身長190センチだし。
こんな2人が一緒にいると目立ってしまう。
「斉藤さん」
「ん?」
「サインください」
声をかけられて振り返ると、女子高生らしき少女。
私は去年の東京オリンピックで銀メダリストだから、たまにサインをお願いされたりもする。
「君も空手をしているのか?」
「はい」
「強いのか?」
「去年のオリンピックで、斉藤さんを見てからです」
「なるほど」
まあ、いわゆる空手初心者だな。
「これにお願いします」
スマホを差し出す少女。
「スマホカバーにか」
「はい」
「しかし、ペンを持ってない」
「あ、持ってます」
「分かった」
私は斉藤銀花とサインした。
「ほら」
「ありがとうございます。うわー、達筆ですね」
「まあな」
私は字も上手いのだ。
読めないようなサインなど、私は書いたりしない。
「でも、斉藤さんが引退なんてショックです」
「まあ、空手だけが人生じゃないからな」
「うわー、名言ですね」
「まあな」
「で、そちらのお兄さんは」
「婚約者だ」
「婚約者!」
「ああ」
「婚約者さん」
「え?」
「斉藤さんをよろしくお願いします」
「うん」
「じゃあな」
「あ、ありがとうございました」
「ああ」
斉藤さんをよろしくお願いしますって、お前は私の何なんだ?
【 おわり 】
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