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頭の中では以前アヤコに言われた『可哀想な子』という言葉がぐるぐる回るのに、昴流自身の口からそれを否定されて混乱しているように頭に靄がかかる。
「なんでっ、なんでっ、なんでなのよっ!!あんたがっ、あんたがいるからっ!!」
俺の方を向いていた昴流にはアヤコの突進する姿が見えなかったのだろう。
刃物を振り回しながら俺に向かってくるアヤコの姿に一瞬遅れた昴流が俺の身体に覆いかぶさり俺は昴流の大きな身体に包まれた。
「ぐうっ・・・・。」
くぐもった声が頭上から聞こえて、昴流の身体が俺に凭れかかる。
カランという刃物を落とす音が聞こえて、昴流の身体の隙間からアヤコがへなへなと床に腰を落とす姿が見えた。
「す、昴流・・・?ね、昴流?」
俺の声が掠れて震える。
「ね、昴流。ねぇ、昴流っ!昴流!」
返事のない昴流の身体が俺の横にドサリと落ちて、俺は彼の身体の下から鮮血が流れている事を確認した。
「昴流っ、昴流っ、昴流っ!!」
何度も昴流の名を呼んだ。
目を開けない昴流の身体を抱き締めながら昴流の名を呼び続けていた俺は、いつの間にか現れた幸田と慶一郎がアヤコの身柄を拘束して救急車を呼んでくれていた事に気付かなかった。
ただ返事のない目の前に横たわる昴流の身体に縋り付くことしか出来なかったのだ。
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