カップ麺と魔法使い

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 格好つけて言った笹崎を見て、目を丸くする琳。さすがにカップ麺が臨時ボーナスと威張るのはどうかしているか……しかも貰い物だし。琳の顔が呆れているように見え気まずくなる笹崎だったが、それも一瞬だった。 「こんなにたくさん、ありがとうございます! お母さんも喜びます!」  飛び跳ねんばかりの喜びようを見せた琳を見て、笹崎はホッと息をついた。  琳はカップ麺十二個入りの箱を二つ、どう自転車に載せるかを考えている様子。笹崎は段ボール箱を開封し、中身を一つずつテーブルに並べ、包装のフィルムを剥がした。 「先生、どうしたんですか」 「さっそく食おうと思って。今日は山ほど呪文を唱えたから、腹減ってな」 「……魔法使うのってお腹が空くものなんですか?」 「すごく空く。じっとしてても頭は使うし体力も使ってるからな。『暗算とマラソンを同時に』と例えるやつもいる」 「魔法は暗算でマラソン……んー、よくわからないけど大変そう」  琳は不思議そうな顔で唸った。しかし魔法使いの家系に生まれ、幼少の頃よりそれを操ることが当たり前だった笹崎にとっては、魔法を使えない方が――それはさておき、ストーブの上で湯気を上げるヤカンを一度持ち上げて置き、中の湯の量が十分であることを確かめた。  胸ポケットから愛用の万年筆を取り出し、指先で器用に回しながら、磨き上げられたデスクへ向かう。今日も留守の間、彼女は抜かりない働きをしてくれていたようだ。ありがたいことだと。 「さて、きつねが五分で、たぬきが三分。その差は二分か」  笹崎は頷いた。この二つを同時に――どう攻略しようか。キャップを回し取り胴軸に差すと、引き出しから取り出した呪文用紙の上に、万年筆を滑らかに走らせた。  魔法で時間を操作することは禁止されているので――それ以外で。なら、きつね側の水温を操作するか。さらに上げれば早く麺が戻るのでは? いや、カップが耐えられないか。ならカップも同時に強化して……。 ――ややこしいな。  紙を剥がす。  ならば、たぬきの麺が伸びたり、天ぷらがふやけすぎぬよう中身を変化させる方法なら? ――失敗すれば食べ物でなくなる可能性があるな。まず味は間違いなく変わる。だめだ。  また紙を剥がす。
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