カップ麺と魔法使い

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「先生、これは何の呪文ですかね?」 「きつねとたぬき、同時に仕上げて一緒に食いたい。そのための魔法をだな……ダメだ。そもそもお湯をかけるだけで美味しいうどんやそばになるのはどうしてだ。不思議すぎるだろ」  覗き込んだ琳に答えながらまた紙を剥がし、髪を混ぜながら万年筆を置く笹崎。即席麺というものは、魔法使いから見ても不思議な食べ物なのだ。 「先生、落ち着いて。先にきつねにお湯を入れて、二分経ってからたぬきにお湯を入れれば、仕上がりは同時だと思いますけど」 「……え?」  琳の意見に間抜けな声を上げた笹崎を、石油ストーブの上に坐るヤカンがしゅんしゅんと笑った。  琳は赤いカップに湯を入れ蓋をした。割り箸を重しにすることも忘れない。スマートフォンを操作しタイマーを二分にし、スタートボタンを押す。 「はい先生。タイマーが鳴ったらたぬきにお湯ですよ。魔法使いは何でも魔法でなんとかしようとするって本当なんだあ……」  琳に苦笑いを向けられた笹崎は、呪文を書き連ねた紙を丸め、ぽいぽいゴミ箱に投げ込んだ。デスクに肘をつき、子供のように口を尖らせる。 「ちょっと試してみたかっただけだ」 「……書き損じの呪文用紙を適当に捨てないでください。普通のゴミに出せないんですから。でもどうして、きつねうどんとたぬきそばを二つを同時にって?」 「どうせなら二人一緒に食べたかったからかな」 「え、いただいていいんですか?」  三たび丸くなる瞳。 「ああ、いつも頑張ってくれてるから、ボーナス上乗せ……なんてな。カップ麺一個だけど」 「嬉しいです。実は私もお腹空いてたんですよね……」  琳がお腹を押さえて恥ずかしそうに笑うと、タイマーの電子音が軽やかに響く。たぬきそばに湯を注ぐのは笹崎が担当した。麺がしゅわしゅわ音を立てながら、薄茶色に染まった湯に浮かぶ。蓋をして箸を乗せ、タイマーを三分に。  応接セットに向かい合わせに座った二人は、テーブルの上に仲良く並んだたぬきときつねを見つめている。部屋を満たす出汁の香りで、笹崎の腹の虫は今にも騒ぎだしそうだ。琳も同じ気持ちなのか、緑と赤の間で視線をさまよわせていた。 「ところで琳はどっちにするんだ? 俺は別にどっちでもいいから先に選んでいいぞ」 「じゃあ、私はたぬきそばで」  琳は即答し、緑のカップを自分の方にそっと手繰り寄せる。
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