カップ麺と魔法使い

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 その風味はたかがカップ麺と侮るなかれ。絶妙なバランスで成り立つ完成された一杯……やはり魔法で変にいじらなくてよかった。ホッと息をつく笹崎の前で、琳は一足早く出汁を飲み干し、はつらつとした表情。 「いいえ、この恩は決して忘れません。まだまだ働きますよ! さあ、先生、私めに何でもお申し付けを!」 「ああ、それなら。今日はもう上がっていいぞ」  笹崎が指差す先――窓の向こうにはしんしんと絶えず白い花が降っていた。この地方には珍しい雪模様に、琳は立ち上がり目を丸くする。 「わあ、雪ですね。珍しいなあ……あ、積もったらどうしよう」 「ああ。その前に帰れ。あと、風邪引かないようにな」  雪が積もってしまえば、自転車で帰るのは難しい。ホウキで送ることも考えたが……笹崎のものは一人乗りの機種、二人乗りでも飛べないことはないが、警察に見つかったら違反切符を切られてしまう。免許を止められれば、仕事に差し障ってしまう。 「あ、そうだ。その箱、後で家まで持っていってやるよ。今から役所への提出書類書いてからだから、八時は余裕で回るけど」  自転車のカゴに無理に乗せるよりは、紐をかけてホウキに吊るし運ぶ方が安全だと考えた。幸い、荷物なら運び慣れている。 「時間は大丈夫です。わざわざすみません……」 「ああ、いいよ。大事な働き手に怪我させたくないしな」 「ありがとうございます、あと、ごちそうさまでした! お疲れ様でした!」 「おう、お疲れ様」  琳は大慌てで荷物をまとめ頭を下げると、転がり落ちるような勢いで事務所を後にした。  笹崎はたまらず窓際に駆け寄る。勢い余って転んでいないかと思ったのだ。琳はまだ高校生にしてはしっかりはしているが、意外と抜けたところもある娘なのだ。  しかしそんな笹崎の心配をよそに、彼女が乗る自転車は雪の中、彗星のように走り去っていった。  笹崎はその光景に胸を撫で下ろすと、椅子に腰掛けた。 「……思い切って、二人乗りのホウキに買い替えようかな」  ホウキの後ろに乗せたら、またあの花のような笑顔が見られたりしないかな。笹崎はかけうどんをすすりながら、ひとり小さな幸せの余韻に浸ったのだった。
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