78人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
13 宮廷で建国
束の間の囚人ライフだった。
向こうは向こうで脱獄に成功していた俊足マッツの働きで、私が島暮らししている間にバッチリ仲間が集まっていたのだ。
そしてランツの元で集結し、サクッと王都へ帰還。
圧勝よ。
それはもう華麗にね。
堕ちたフィアソルデ国王で私の夫のリアムを甲冑姿のラスムスがしめて、リアムを堕とした清楚で賢い系ビッチのテレサを私が小舟に乗せて海に放った。
「命だけは助けてやったんだから! せいぜい頑張って、海で生きなさい!!」
「復讐してやる!!」
「嵐に気をつけてねぇ~♪」
ざっと、こんな感じ。
「ふぅ!」
またサクッと新たな議会を立ち上げて、リアムから王位剥奪を達成。
当然、離婚成立も達成。
私は宮廷に返り咲いた。
現在、空席である国王の代理で王妃且つ英雄の孫娘の私が、国を廃して新たな国を建国する計画を、大臣の座に就いたラスムスもといフォーシュ公爵と協議中。
「ピュン神聖国」
「ダメ」
「ウヴヴの国のラー」
「ダメ」
「ネバグダム王国」
「却下」
盲点だったわ。
なんでもできちゃうラスムス、ネーミングセンスだけは最悪。
「グリトガル王国っていうのは?」
物は試しに言ってみたわよ。
ちなみに、ムキムキのおじぃさまにちなんだ国名にしてみたりして。
「いいですね!」
チョロいわ。
「では、こうしましょう」
ラスムスが卓上に身を乗り出して意気込む。
目が、輝いている……
「なに? 巨大な溶鉱炉でも建てる?」
「いえ。あなたを女王陛下に」
あ、なるほど。
「まあ、そうでしょうね」
私があっさり受け入れたからなのか、ラスムスが目を細めて嬉しそうな笑顔を見せた。優しい顔。あと、身綺麗な彼って素敵。
「それで? あなたはどうするの?」
「僕は女王陛下に命を捧げます」
「ええ。私にはあなたが必要よ」
それから、しばらく見つめあった。
「……」
「……」
まるで、私の胸の高鳴りを煌めく鉄鉱石とでも思っていそうな、希望と期待に満ちて輝くラスムスの瞳。
「ラス」
言って欲しいのよ。
あなたから。
男を立ててあげないと……ほら。
「まずは、王位継承権をあなたの血筋に限定し、配偶者にはその権利がないという法律を作りましょう」
優しく微笑んだまま、静かに彼は言った。
「私は妻で陛下だったけど、私の夫は陛下にならないわけね」
「はい」
「その夫は、誰?」
甘い雰囲気に、なってきた。
その時!
バアァンッ!!
「王妃様、王妃様っ、王妃様ッ! たいへんですッ!!」
大臣に返り咲いたマッツが政務室に突入してきた。
ラスムスが静かに、けれど威圧的に立ち上がる。
「慎め。じきこの方は女王陛下と──」
「ラミラが卵を産みました!!」
「なんですってッ!?」
あのラミラが!?
私は椅子を蹴って立つと、ラスムスの袖を掴んで走り出した。
いくら中年の髭チョビンな小太りマッツだとしても、足の速さは健在。私だって本気で走る必要がある。
「船は!?」
「万全です!」
「なんて事なの! ラミラに夫がいたなんて!!」
ランツめ……
私に、重大な隠し事をしてたわけね……
すると私たちは人妻コンビだったってわけ?
で、別の男と島暮らし。
「……!」
ロマンチックだわ!
「それで私の新しい夫がどうしたって!?」
「えええっ!?」
走りながらラスムスに問いかけると、マッツが驚いてぼよんと跳ねた。
「ハシビロコウが産卵して王妃様が結婚ッ!?」
「そうよ!」
「お祭りですね!!」
「ついでに建国もしちゃうわ!!」
「なんですってぇぇぇっ!? おうっ、神よ!! 天国のトーレン公よおぅっ!!」
マッツが涙で崩れ落ちたので、私はラスムスと二人、船に飛び乗った。
すごい騒ぎになってしまったけれど……
その夜。
母鳥の気品と威厳を纏ったラミラをうっとりと眺めながら、焚火を囲んでいる時。ラスムスが甘く囁いてくれて、私は無事に、妻としても返り咲く事になった。
今度は、私自身が女王として。
私のために何でもしてくれる、新しい夫の隣で。
(終)
最初のコメントを投稿しよう!