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1 寝室で破局
熱い唇が私の肌に降り注ぎ、体の奥に火を灯す。
さらさらという衣擦れの音。二人の弾む吐息。なめらかな胸が私を押し潰した。
舌が絡むキス。
からの……
「ん……っ、ふは。テレサ」
「え゛?」
テレサ?
私はガバリと起き上がり、枕元のランプの紐を掴んで倒しながら点けて夫を睨んだ。
「今、なんつった?」
「えっ? いやっ、なんでもッ? 君の名を!?」
「テレサって誰よ」
「──」
黙ったって無駄。
「テレサって誰よッ!?」
私は王妃イザベラ。
フィアソルデ国王の若き国王リアムの妻。
ちなみに婚約期間は、生まれてから結婚までずっと。
テレサなんて女、知らないんだけど。
「イザベラ! いやっ、あのっ、そのッ」
「ふんっ。どいて!」
「!」
ベッドから夫を蹴落とし、ガウンを羽織る。
怒りでうまく紐が結べない。構ってられないのでギュッと縛った。解けなかったら切ればいい。
「んで? テレサって?」
「ごっ、誤解だ! そう、娘! 娘だよ! 二人の間に娘が産まれたらそう名付けようと思っていたんだ! テレサ姫!」
「キスしながら? ベッドで? 裸で?」
暫し、忌々しい夫と見つめ合う。
やがて夫は目を逸らし、表情を変えた。
「チッ、可愛くない」
「はあっ!?」
開き直った!?
「まったく。君にはもう、うんざりだ!」
「なに言ってんの?」
ベッドで、夫婦の親密なふれあいの最中、他の女の名前を呼んだのは自分でしょう?
「言ってやる。テレサは君の100倍、可愛い」
「……」
私が言葉を失っていると、夫も手早くガウンを着こんで戸口に向かった。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「引き留めても無駄だ。もう愛想が尽きた」
と、そこで憎たらしい笑顔を私に向けた。
「謝るなら今だがね」
「……は?」
なにそれ。
「どうして私が謝るのよ!」
「君が夫を敬わない妻で、王を立てない王妃だからだ!」
「人生捧げて生きてきたわよ!!」
誕生と共に婚約が決まり、一直線で結婚した。
それなのに、私に非があるわけ?
「恩着せがましく言うのはやめろ! 君を求めた覚えはない!!」
「はあっ!?」
開いた口が塞がらないとはこの事よ。
「じゃあ私はあなたのなんだって言うわけ!?」
「差し詰め、周りから押し付けられた女体という名の鎧だな!」
「女体ぃッ!?」
私はイザベラ・オクセンシェルナよ!
せめてイザベラという名の鎧って言いなさいよ!!
「悪く思うなよ? 私はもう、自分より狂暴な女を抱くのは耐え難い」
「だからって、そのテレサって女のところへ行くわけ?」
「そうだ!!」
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