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10 拠点で餌付
「陛下。見事な食べっぷりで」
「ええ」
満たされた。
「では、寝床を準備しましょう」
「もういい。焚火を囲んで寝ましょう」
「いいえ、いけません。まだ島の生態系を把握していないという事は、夜に地べたで転がっていたら、ヘビか、最悪はワニに、召し上がったイノシシと魚ごと、あなたを、丸呑みされてしまう危険があるという事です」
噛んで含むように説明されて、納得したわ。
「ええ。寝床を整えましょう」
焚火に煽られるラスムスが、真剣な表情で頷いた。
とても神話的だわ。
「あなたがイノシシを〆ている間に、いい感じの枝を集めておきました」
「小屋を建てるのね」
夜だけど。
「さすが陛下、御明察。今夜はさしあたり超特急で地下壕の一部を作り、そこで安眠して頂く所存です」
「さすがラス。愛してる」
「光栄です」
恭しく頭を下げると、ラスムスはのそりと立ち上がった。
「では、陛下。ここから……ここまでの、四方の土を、陛下の身長ほど掘り下げて頂きたいのですが、お願いできますでしょうか?」
「な、ん、です……って……ッ!?」
公爵家に生まれ王妃となった私に、土を掘れと?
この私に、大自然の中で自ら住居を作れと?
……わなわなする……
……燃えてきたわ……
私ものそりと立ち上がり、肩を回した。
「腹ごなしにちょうどいいわ。任せてッ!!」
こうして私が土を掘り、ラスムスが掘った土に海水を混ぜ枝と枝の繋ぎにして頑丈な屋根を張った。私がイノシシを狩ってる間に簡易的な扉を既に作っていた万能模範囚ラスムスに、本気で愛しさが増した。
「我が家ね……!」
「興奮冷めやらぬ中、大変申し上げにくいですが」
「なに!?」
「明日に備えて、しっかりお休みください」
「わかったわ! おやすみ」
寝付きはいいほうなのよ。
ぐっすり眠ったわ。
そして、初めての朝……
「?」
外から妙な物音がして、お腹もすいたしヘビなら〆てやろうと押し上げ式の簡易扉を万全の態勢で開けてみた。
「……!」
清々しい朝陽が射し込んでくる。
「ん……」
ラスムスも起きた。
危険がなさそうだと判断した私は、腰ほどの高さで掘らずに残しておいた土の足場に乗り上げ、しっかりと周囲を見渡してみた。
そこには……
「イザベラ様……よく眠れました?」
「シッ。来て」
小声でラスムスを呼びつけ、二人で並んで物音の正体を眺めた。
「見て、ハシビロコウ」
「……本当だ」
ラスムスが素で驚いている。
私は少し屈んでラスムスの耳に囁いた。
「あれは……食べてはいけない気がする。感じるのよ、知的な視線を。あるいは、支配的」
「島の主なのかもしれないですね」
初めての朝、私の目に飛び込んで来たのは、二足歩行しているデカい鳥。青のような灰色のような体に、ココナッツみないな規模の嘴、それに鋭い視線。
あれは、獣ではないわ……。
「ヘゲェッ」
神々しい。
「魚をあげてみようと思う。仲良くなれるかも」
「ああ、餌付けは有効ですよ。実証済です」
「あなたの言う事はだいたい正しい」
漲る体力で地下壕から飛び出ると、ハシビロコウも翼を広げて飛び退いた。ギョロッと目を剥いて、私に驚いたみたいで
「ヘゲェッ!?」
と疑問符系の声をあげた。
「大丈夫! 私よ!!」
掌を向けて真剣に敵意がない事を伝えてみる。
「…………へッ」
「魚、食べたいんじゃない?」
「……」
ハシビロコウとラスムスとで朝食を囲んだわ。
とても和んだ。
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