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11 涙目で誤解
「ラミラ、見て。あれはグレープフルーツの木」
「ヘゲェッ」
ラスムスが拠点を強化している間、私は島の探索に励む日々。
島暮らしが最高に楽しくて、ここに永住してもいいくらいよ。
「モリモリ生ってる。競争よ!」
「ヘゲェッ!」
ハシビロコウにはラミラと名付けた。
女の子だったから。
バサァッ!!
「あ! 飛ぶの!?」
灰色の大きな翼を広げ、長い足をひょいと後ろに伸ばしてグレープフルーツの木を目指して飛んでいくラミラ。
「やるわね……っ!」
負けないわよ!!
……と、意気込んだものの。
翼を広げた鳥には勝てなかった。
探索には、ラスムスが持ち出した女囚の重労働用の頑丈な作業着を愛用している。前の部分を持ち上げて袋状にして、もげるだけもいだグレープフルーツを持って帰った。
「……なッ!」
ラスムスが、小型ピッケルの先を、舐めていた。
それはもう憑りつかれたような、別世界を眺める目つきで。
忘れていたわ。
私の模範囚は、金物を舐めるのが好きで好きでたまらなかったわね。
「……」
「……ハッ! 陛下!!」
「ヘゲ」
ずいぶんと私を探索に送り出すと思ったら、ああやって留守の間に舐めていたのね。別に止めやしないけど、実際この目で見ると異様だわ。
「ただいま」
「ヘゲッ」
「おかえりなさいませ、陛下。ラミ」
「ラミラよ。混乱するから、ちゃんと呼んで」
「おかえりなさい、ラミラ」
「ヘゲェッ」
人慣れしてるハシビロコウなのよ。
可愛いわ。
「陛下の計測を元に地図を作製してみたのですけどね」
「さすがよ。愛してる」
「光栄です。どうもこの辺りから鉄の匂いがします」
「……」
小型ピッケルの夢から、まだ醒めきってないのね。
いいわ。
「ええ」
「ヘゲ」
「地下へ潜るのに昼夜は関係ないですから、ここいらでちょっくら採掘してきますので、2~3日帰らなくても心配しないでください」
「わかった」
今では、拠点は頑丈な石造りの家になっている。
暖炉と煙突を完備し、地下は木材と石材で補強されて食物の保管庫も兼ねた。
ここはもう私たちの楽園。
ラミラもいるし。
最悪、ラスムスが地中で死んでも私とラミラでやっていける。
まあ帰って来るだろうけど。
「もう少し心配してくださっても……」
「あなた、なんでもできる天才だもの。埋まったら埋まったで、その分の御宝をゲットして帰って来るでしょう」
「あはっ♪ いやぁ、それほどでもホ♪」
「3週間帰らなかったら弔う」
「帰ります」
こうしてラスムスのいない夜を過ごした。
ラミラは自分の巣で寝ているので、夜は本当に一人だ。
「……」
暖炉の火が爆ぜる音を聞きながら、ラスムスが建てた家で寛いでいる。
そのラスムスはいない。
「……」
寂しくはない。
だけど、彼なしではもう生きられないような気がしてしまう。
「建国か……」
彼と二人、この島で文明を築いていくのも面白そうね。
「ムフフ……今頃、ラスったら興奮して掘ってるでしょうね」
想像するだけで、キモい。
そんな姿を思い描いていたら最高に和んで、ぐっすり眠った。
そして只ならぬ気配を察知して、早朝に起きた。
ガバッと起きてバッと扉を開けるとそこには、ランツがキョロキョロしていた。
「あなた……!」
まさか、テレサ側に寝返って私たちを……!?
「ああ、元王妃。どうも」
「なにしに来たの?」
「ジャミラの様子を見に。閣下は?」
バサァッ!!
「おお、ジャミラ~。パパだよぉ~ん」
「!」
滑空してほぼ直下してきらラミラに、ランツが笑顔で手を伸ばした。
私は言葉を失った。
「……」
あの子、人懐こいと思ったら、既に他人に手懐けられて仕上がった後だったなんて。私が初めての、人類の友じゃないなんて。
寂しい。
「ジャミラって?」
名前だって、どうせ……発音が似ている名前を偶然つけたから、私がジャミラって呼んだと思ったんでしょ。それで『あ、こいつランツの友達だ』みたいに思ったんだわ。だから仲良くしてくれたのよ。
悲しい。
「この子はジャミラだ」
「ヘゲェッ!」
ランツLoveって感じで、着地したラミラが頭を擦り付けて甘えている。
私にはあんな事しない。
切ない。
「あっそう。私はラミラって呼んでる」
「それより、閣下は?」
「……」
なんだか、視界がゆらゆらしてきた。
私……泣きそう。
ラミラはジャミラで、ランツの事パパだと思ってる。
「ハッ! まさか……!」
涙ぐむ私を見て、ランツはラスムスを案じたみたい。
「違う。今、採掘で留守」
「ヘゲェッ」
ラミラが幸せなら、それでいいわ。
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