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12 同盟で逆転
「というわけで閣下、亡きトーレン公爵の配下にあった諸侯が私の元へと押し寄せて、メガフロート監獄を拠点に国王を惑わした魔女テレサ討伐の狼煙をあげたわけでございます」
「ヘゲェッ」
5日間の採掘から帰ったばかりのラスムスは、興奮した様子のランツをギロリと睨んだ。
「精錬させろ」
声が、本気なのよ。
もう鉄の事しか考えてないのよ、あの男。
「おお、これは、御無礼をお許しください」
「おかえりなさい、ラス」
「陛下ぁ♪ あなたのラスが、も・ど・り・ま・し・たッ♪」
「ヘゲ」
賑やかなのよ。
それはいいの。
私としては、ムキムキおじぃさまのかつての部下である錚々たる面子が、私のために立ちあがってくれた事が最高に嬉しい。けど、それはまあいいわ。
今は溶鉱炉に直行させてあげましょう。
精錬した鉄で剣と槍と斧を作って宮廷に突っ込むわよ!!
「……っ」
燃えるわぁ!
滾るぅぅぅぅぅぅっ!!
「元王妃」
「なによ」
「おい、ランツ。私の前でその方をぞんざいに呼ぶなと言っただろう」
ラスムスの人格が二転三転してもいいの。
ここからは私たちのターンよ!
待ってなさい!
忌々しいリサ!!
リアム!
と、テレサ!
呪うなら名前を略したダメよね。
「いえ、こちらの元王妃様が──」
「陛下だ」
「こちらの陛下が」
「それでいい」
「はい。それでこちらの陛下が、先ほどから息が荒いようですが、もしかして体調を──」
「武者ぶるいだ。今、最高に滾ってきて力を溜めているから、手合わせのお相手をしろ」
「ハッ。閣下!」
「ヘゲェッ」
「やるわよ!!」
そんなわけで、とても正気とは思えないような恍惚とした表情でラスムス製の溶鉱炉へと向かうラスムスを見送って、私はランツと準備体操をした。木の棒で手合わせもして、完膚なきまでに叩きのめした。
「つぉい……っ」
「ヘェーーー」
ラミラが私をキラキラした目で見つめてる!
やったわ!!
「それにしても、勝手に開拓してごめんなさいね。あなたの島だったなんて。無人島かと思って」
「……今、それ……っ?」
棒を握って振り回したら、頭がスッキリしたのよ。
ラスムスは私と取っ組み合いだけはやってくれないから。
「吉報をありがとう」
「いいえ……」
ぱたり。
ランツが力尽きた。
力尽きたランツを、ラミラが大きな灰色の翼で励ますように叩いた。
「寝かせておきましょう。疲れているのよ」
「ヘゲッ」
「それより私と遊びましょう」
「ヘゲェッ」
ラミラのいちばんの親友は、これで私よね?
ランツ。
ネーミングセンスが似ているんだもの、私たち、うまくやれ──
「ねえ、ちょっと!」
バシッ、と。
私は軟弱なランツを叩き起こした。
「はぅッ」
「マッツは?」
「ヘゲ?」
「待ってね、ラミラ」
今、大事な話をしているところだから。
「マッツよ。宮廷で私に事態を報せてくれて速攻で投獄された大臣で、祖父のかつての伝令兵。今は小太りで髭チョビンのおじさんだけど、凄く足が速いの」
彼、まだ捕まっているのかしら。
心配だわ。
「ランツ! マッツよ! マッツ!!」
「来てますから……ゆ、揺すらないで……っ」
「来てるってどこに?」
「し、まぁー……」
ぱたり。
ランツは今度こそ力尽きた。
初老の体には、休息が必要かもしれない。
長閑な島暮らしでハシビロコウまで飼い慣らすような、平和な男だもの。ちょっと無理させちゃったわね。
「おやすみなさい、ランツ」
「ヘゲェッ」
「ええ、遊びましょう。ラミラ!」
「ヘゲェッ」
バサァッ!
ラミラが灰色の大きな翼を広げて、ふわりと浮いた。
本当に可愛い。
あなたにとってラミラもジャミラも同じなら、私はあなたを私だけのラミラと呼ぶわ。愛してる。
最高の気分!
今なら私だって空も飛べそうよ!!
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