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2 冤罪で投獄
眠れない夜を悶々として過ごした。
憤懣やる方ないとは、この事だわ。
でも、私は王妃。
堂々と浮気をされたからって、狼狽えてどうするの?
「しめてやる……」
夜明け前、ちょっとだけ眠って、私はいつも通りの朝を迎えた。
美しい人だった祖母と母のおかげで、そこそこの美貌を持って生まれた私。逞しい人だった祖父と父のおかげで、強靭且つすらりとした曲線美を保つこの体。
そう。
私は、王妃イザベラ。
臆する事はなにもない。
夫の傍にチョロついてるであろうテレサを縛り上げて監獄にinよ。
「王妃様!」
「?」
朝っぱらから、血相変えた大臣に捕まった。
小太りで髭チョビンのマッツは、かつて祖父の国防軍で伝令を務めた俊足の少年兵だった。そのため今では私に傅いている。私が身内同然に信頼している家臣の一人だ。ちなみにこの体形でも恐ろしく足が速いので、走る姿が可愛い。
「たっ、大変です! 見知らぬ女が陛下と並んで玉座についています!」
「はっ!?」
な、なんて?
「お逃げください!」
「えっ!?」
なっ、なんで?
「血迷った陛下が、女と結託し王妃様を監獄へぶち込むと息巻いています!!」
「えええっ!?」
どうしてッ!?
「わ、私がなんの罪で……!?」
「よくわかりません! とにかく、ほとぼりが冷めるまでどこか適当に逃げ隠れてやり過ごしてください!」
「そんな……」
眩暈が。
「お気を確かに!」
「もう無理……」
「王妃様!!」
ガシッ!
大臣が私をキャッチ。
崩れ落ちそうだったので、助かった。
「しっかりしてください! 亡き先代のトーレン公が天国で泣きますよ!?」
「は……っ」
お、おじぃさま……
「そうです! あなたは国を救った英雄の孫娘! 銅像まで建つ軍神の末裔なのです! 宮廷にはあなたの味方が蠢いています! 時を待つのです!」
ムキムキのおじぃ……
「今朝は異常なほど陛下がいきり散らかしていて危険です! 何をやらかすか、わかったもんではありません!! ですから──」
その時。
透き通った声が宮廷を突き抜けた。
「陛下」
「!?」
普通に、その女はいた。
夫の隣に。
「……リアム」
口から、忌々しい夫の名が洩れたわ。
「ご覧ください。ああしてトーレン公爵家を篭絡したように、宮廷内でも大臣や兵士を誘惑し、この国を我が物にしようと企んでいるのです」
「……は?」
聡明と清楚を代表するような賢い系の美女が、尤もそうに世迷言を……
「あの女は魔女です」
「はいっ!? ななっ、なんですって!?」
魔女!?
「はわわわわっ」
大臣が怯え始めた。
もちろん、魔女疑惑の私じゃなく、国王リアム陛下の御乱心に。
「馬鹿を言わないでちょうだい。魔女なんているわけ──」
「あの女を捕らえよ!!」
夫が叫び、兵士がワラワラ沸いてきた。
その夫の隣で、王妃さながらに着飾ったその女は、善良そうな顔を微かに歪めてほくそ笑んでいる。
「陛下! いけません! イザベラ王妃は英雄の孫娘! あなたの国を救った、恩ある公爵家の末裔なのですぞ!? っていうかその女は誰なんですかッ!?」
テレサよ。
「魔女の下僕に成り下がったあの男も捕らえよ! 暴れたら殺せ!!」
「えええっ!?」
がんばってくれた大臣が拘束され、私も、後ろ手に縛られて跪くよう命じられた。
「お、王妃様……っ」
「やり過ごして」
「そんなぁ……」
私を逃がそうとしてくれた大臣が人質に取られては、打つ手がない。
沸きまくった屈強な兵士たちと一人で戦えなくもないけど、その間に髭チョビンの小太りマッツが首を刎ねられでもしたら一生後悔する。彼はただの大臣ではないのだ。ムキムキおじぃ様の思い出を語り合える、友。
私の夫であり国王でもあるリアムは今、最高潮にとち狂っている。
テレサめ……
「むっはっはっはっ!」
「オホ、オホホホホッ!」
これは、やばいわ。
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