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3 監獄で邂逅
ギロガ海に浮かぶ孤島トラモギに、私は檻付きの船で輸送された。
もちろん体には鎖付き。
ワナワナしたわ。
「監獄長! 囚人です!」
「ハ? 王妃様……?」
「国家乗っ取りを目論んだ魔女であります!!」
「……ハァ」
やる気ない声を出してるんじゃないわよ!
という私の声は、心に留めておく。
「あんな馬鹿と結婚するから」
「……」
監獄長も、心に留めておいてほしかったわ。
トラモギ島に建てられたメガフロート監獄は、寒々しい石造り。鉄格子と分厚い壁に囲まれた薄暗い船着場が、そのまま入口になっている。
極悪の政治犯とかが死ぬまで収容されるような監獄よ。
さすが、魔女だわ。
「魔女か……火炙りじゃあないんですね。時代は変わりましたねー」
「あんた、ずいぶん呑気ね。ここじゃあ自分が王様ってわけ?」
罪状を読み上げつつ独り言を洩らしていた監獄長に、私の口からもつい嫌味が洩れた。
「こちらへどうぞ。王妃様」
「チッ」
嫌味?
それは嫌味なの?
「さすがに過酷な肉体労働ってわけにはいかないですから、独房で静かにお過ごしください。3食昼寝付きです」
「嫌味ね」
体を動かしたほうが、ましよ。
そんなこんなで私は石壁に囲まれた狭い独房に入れられた。
食事を差し込まれる小窓。
監視のための、顔サイズの鉄格子。……あれをもげば、武器になるわね。
「最終手段よ。少し様子を見ましょう」
早速、独り言が滑り出た。
もしかすると監獄長も私をおちょくっていたのではなく、長い島暮らしで培った独り言だったのかもしれない。
だからなにって話だけど。
「……」
許さない。あの女。
「……」
あとリアム。
絶対、このままじゃ済まさない。
「……」
私は心に誓った。
必ず人生を取り戻す。
王妃の玉座に、再び返り咲いてやる。
それでリアムをしばき倒して、テレサを監獄へぶち込んでやる。
「……イザベラ様……」
「え、誰?」
急に石扉の向こうから名前を呼ばれた。
若い男の声。
ちなみに、分厚い石扉は滑車式よ。
たとえ協力者が現れたとしても、開けた瞬間に脱獄がバレる。
「これを」
「?」
食事用の小窓から、肉の塊がぬっとさし込まれた。
「!」
「豚の燻製です。力がつきます。食べて」
「ありがとう!」
私は肉に飛びついた。
そして、
「ハッ!」
我に返った。
「……」
もし、毒が仕込まれていたら。
死ぬわ。
「……」
生きて食中毒を乗り越え、二人に復讐を果たす?
肉を味わって、清く死ぬ?
「……」
こんな場所でお腹を下すなんて、嫌。
「美味しいですか?」
「……」
「あれっ? 魚派ですか!? うわぁ、すぐ釣ってきます!」
「え?」
石を滑るような足音のあと、また静寂が訪れた。
私は豚の燻製肉と、暗い独房に取り残された。
「……」
ずしりと重い。
この肉を、食べたい。
ガガガガガガガガッ!
「!」
気づいたら完食していた。
「……!」
抜群の塩加減だった!
胃袋が満たされて、じわじわと力が沸いてくるわ!
これよ、コレ!!
あああああ、漲るわぁっ!
誰かは知らないけれど、ありがとう!!
「魚はまだァッ!?」
もう一回、肉でもいいのよ?
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