4 寛容で危険

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4 寛容で危険

 匂ってきたわ……  香ばしい、焼き魚の香りが…… 「イザベラ様、どうぞ」 「ありがとう」  釣りたて焼きたての魚。  ほくほくよ……! 「ほふっ、はふっ、ひゃぐひゃぐ、んんっ」 「骨に気をつけて」 「おいひぃわ!」 「あああっ、よかったです!!」 「あなた誰?」  一匹目を平らげたところで、改めて聞いてみる。 「ああ、失礼しました。僕はラスムスです」 「看守?」  自由が利きすぎじゃない? 「いえ、模範囚です」 「えっ?」    自由が利き過ぎじゃないッ!? 「だっ、大丈夫なの? こんな勝手な事して……」 「んー。さっきランツとすれ違ったけど何も言われなかったから、いいんじゃないですか?」 「ランツって?」 「監獄長のアンドレ・ランツですよ。あ、食べてください。冷めないうちに」 「あ、ええ」  二匹目にかぶり付く。  今度は、頭からいくわ! 「はぐっ、あむ、んぐぐ……アンドレ・ランツって、聞いた事あるわね」 「ヘルクヴィスト伯爵です」 「ああ、トラモギ島はヘルクヴィスト伯領だものね。え?」  領主なのに、島に篭って監獄長なんてやってるの?  ……趣味? 「無害な世捨て人です」 「そうよね」  気にする事もないわ。  アレは仕事をしているだけだし、兵站は確保できそうだし。   「今、何時?」 「夕方の4時です」 「そう」  夜だと思ってた。 「そこだと時間の感覚がなくなりますよね。外は雨ですよ」 「音も聞こえないわ」 「夜が来る前に薪を持ってきます。火傷に気をつけて、暖を取ってくださいね」 「ありがとう。本当に助かる」  いい人ね、ラスムス。  三匹目は腹からいくわ! 「それにしても酷い奴らです」 「ふぇえ、ふゆえあい(ええ、許せない)」 「議会は国王夫妻の離婚を認めなかったそうですね。だからって、裁判にまでかけてあなたを魔女だなんて……姑息な」  詳しいわね。  模範囚って、通達まで把握してるのかしら。 「破れかぶれとは言え見苦しいッ!!」 「!」  情熱的な、模範囚。 「骨に気をつけて。本当に」  唐突に温和な模範囚に戻った。  感情のふり幅が激しい人は危険か無害かのどちらかだと、おじぃ様が言っていた。  人間、だいたいそう。 「まだ鍵を入手してないので、万が一の時も看てあげられないから」 「ふぁ?」  え、鍵? 「イザベラ様……」 「……んぐ」  今、鍵って言ったわよね?  模範囚、鍵、狙ってるの?  自分が出ればいいのに…… 「ラスムス」 「はい、陛下。なんなりとお申し付けください」  仰々しいわ。   「私はもう、王妃じゃないのよ。たぶんね」 「いいえ、イザベラ様。あなたは永遠の王妃様。陛下。世界中のすべてがあなたを裏切ろうと、僕はあなたに傅き陛下とお呼び致します」 「そんな事言って……」  男は信じられない。 「リアムなんて馬鹿息子が王位を継いだフィアソルデだから、あなたを貶めたんですよ。こんな国は棄ててしまって、建国しましょう」 「……え」  いや、規模が。 「駄目よ。いくら国王がクソでも、私の祖父が守り抜いた国だもの」 「そうですね」 「お墓もあるし」 「ですよね。なので、潰してから建国しましょう」 「……」  危険思想。  なるほど、メガフロート監獄に収監されるはずだわ。 「心配ご無用。諸々の手続き等、小難しい事は全てこのラスムス・エクステットにお任せください」 「えっ?」  エクステット……? 「あなた、金庫破りのフォーシュ公爵?」  式典や祝宴で招くと、必ず武器庫と宝物庫に忍び込んで、何も取らずに恍惚の表情で帰っていくという変人。 「それは誤解です」 「あ、そうよね」  まさかね。 「僕は金庫を破りたいのではなく、名だたる貴族が収集した世にも素晴らしい金物に触りたいのです」 「え」 「あわよくば舐めたい」 「……」  あ、変態?
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