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6 発散で発汗
それからというもの私は、朝か夜かもわからない独房だったり、石造りの寒さだったり、餓死を狙うかのような慎ましい監獄食にはかなり不満が募ったものの、ラスムスのおかげでそこそこ快適な囚人ライフを送っていた。
「んーーーーア゛ァッ!! ふんーーーーーグアァッ!!」
「イザベラ様、イザベラ様ッ、イザベラ様ッ!?」
「ア゛ァァァァッ!!」
珍しく、石扉の向こうでラスムスが焦っている様子。
「何ッ!?」
「えっ!? いや、こっちの台詞……???」
「ドルゥアァァァッ!!」
「なにやってんすか!?」
訓練よ。
「腹筋! 体が鈍ってしょうがないし、苛々してしょうがないからッ!!」
「腹筋ですってぇっ!?」
「ええっ! あなたは何回できる!?」
「えっと……」
「ふんグアアァァッ!!」
「陛下は、何回目なんですか?」
気取った声を出しちゃって。
ラスムスったら、ただの模範囚のくせにまだ公爵気取り?
「847回目! はっぴゃく、よんじゅうっ、ふぁちぃぃぃぃぃぃっ!!」
「凄い」
でしょ。
朝飯前よ。
「あなたに傅く者として、僕も久しぶりに鍛えてみようかな……」
「いいんじゃない!? ドゥアッ!!」
「1ザベラ、2ザベラ、3ザベラって」
「がんばって!! ングアアッ! こっちの目標は1000!!」
「御意」
漢を見せなさい、ラスムス!
そして腹筋のあと腕立て伏せを280回くらいしたところで、ラスムスがリンゴを差し入れてくれた。
「ありがとう! んっ、ふっ、んっ、んぅっ、ぐあっ!」
「陛下……今度は艶めかしいお声でなにを……」
「腕立て伏せっ、よっ! んっ!!」
「ファイト」
しばらくして仕上げに空気椅子をしていた頃、ラスムスがスープ用の器8個を用いて、体をさっぱりさせるためのぬるま湯を差し入れてくれた。
あと、骨付き肉。
「まあ、美味しそうね!」
「汗をおかきでしょう? 運動後に適した塩加減にして、レモン汁をふりかけて来ましたよ」
「最高!」
「ほかに何か欲しい物はありますか?」
ラスムスは優秀だ。
私は空気椅子で腕組みしながら、代り映えしない石造りの天井を見あげた。
「懸垂したいわね」
「ああ」
流石にムリよね。
「何か考えます」
「え?」
ほんと?
やるわね。
ラスムスが石扉の向こうから去ったあとも、私は空気椅子で腕組みして代り映えしない石造りの天井を見あげていた。
それで、夫の事を考えていた。
ラスムスの言う事にも一理ある。
現在のフィアソルデ国王リアム2世は馬鹿でクソ。
内政は恐怖政治で、農地開拓案や減税を退けて娯楽施設と宿場町を建設するという案を推していた。
「テレサの件がなくても、王失格よね」
私、ムキムキおじぃ様に顔向けできないわ。
駄目な王妃だった。
でも、夫が私の言う事を聞かないのはどうしようもない。
アレは清楚で賢い系の美人なのに床上手なテレサの言う事を聞きたいんだもの。
「……………………」
言ってわからないなら、体で覚えさせるしかないわよね。
テレサって賢い。
「イザベラ様」
「ああ、ラスムス。夕食?」
「いえ。あなたの僕がお望みのブツをお届けに参りました、陛下」
「?」
もったいぶった口調が好きよね。
陛下って言いたいだけよ。
「???」
と思っていたら、食事用の小窓が塞がれた。
「ラスムス?」
「量があるので、テンポよく受け取ってください」
「あ、ええ」
塞がれたと思ったら、小窓ギリギリのサイズの木材が挿し込まれていた。
私は空気椅子をやめて、小窓に寄った。で、木材を取った。
「なにこれ」
木材は私の腕程の長さがあり、先端の中央部分に凹凸があった。厳密には、凹の部分と凸の部分が。
「お手数ですが、窪みの部分に突起を差し込んで組み立ててください。それぞれ窪みと突起の脇に数字を刻んでありますから、1と1、2と2……という感じで、順番にやって頂くと懸垂器になります」
「愛してる」
「光栄です」
私は木材をしげしげと眺め、ラスムスからも木材を受け取り続けた。
早く入れたい。
我慢できない。
「愛してるわ、ラス!!」
「ああんっ、もっと言ってェッ!! はい次ィッ!!」
木材がすべて揃った後も、ラスムスは石扉の向こうに居座り続けた。私に褒められたくて。
「すっごい! 絶妙なキツさになってるのね! ちょっと、こう、押し込む感じで……! ビクともしないわ! 二度と抜けない感じ!! さすがよ!!」
「陛下ぁ~♪ 滅相もありせぇんっ♪」
可愛いものよ。
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