8 襲撃で漂流

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8 襲撃で漂流

 しばらくまったり過ごしていたら、珍しく慌てた様子のラスムスに起こされた。 「陛下陛下陛下!」 「ん……ぁ、なによ。今、何時?」 「そんな事を言っている場合ではありません!」  あまりの剣幕に驚いて、筋肉痛の残る体をむくりと起こす。   「どうしたの?」 「陛下ぁー、大変です!」 「でしょうね」  と、ここでガラガラガラガラと滑車が音を立て始めた。   「え?」  ラスムスが、独房の石扉を開けている。 「え? えっ? えッ!?」  なんで!? 「極刑不可避の不届き者クソ阿婆擦れテレサの襲撃です!!」 「はあっ!?」  筋肉痛なんて忘れて飛び上がるわよ。  腕が鳴るわ……! 「わざわざ船で来たって言うの?」 「はい! 50人程の少数精鋭部隊があなたを暗殺しに来ました!」 「テレサは?」 「本人は宮廷で高みの見物というか、あなたの死を肴に乳繰り合っているんでしょうけどね」 「むかつく!」  ついに石扉が開いた。 「陛下!」  松明がイン。  赤々と燃える炎に炙られる、ラスムスの顔。 「きゃあっ!!」 「えっ!?」  素敵じゃない!  もっと微妙な容姿かと思ってた! 「好みの顔でびっくりした!」 「えええっ!?」  ラスムスが目を丸くしている。  で、直後にデレデレし始めた。 「嫌ですよぅ、もうっ。こんな時に!」 「兵士は?」 「ランツの護衛や監獄兵たちが応戦していますぅん♪」  クネクネしてから私の手首を握る。 「あっ」 「あっ」  二人で、つい声をあげちゃったりして。  ラスムスからも炎に炙られる私の顔が見えたようで、彼は急に真顔になって低い声で呟いた。 「思ったより細い」 「見えない部分に筋肉つけてるの」 「脱いだら凄いってヤツですねぇッ♪」  浮かれ調子に戻った。  そして私たちは、騒がしい監獄内をほぼほぼ走り抜け、倉庫のような一室に辿り着いた。 「はい、陛下」  松明を渡される。 「それにしても驚きですねぇ。あれだけマッチョ自慢なイザベラ様が、そんなに普通の美しい王妃様だったなんて。小僧はどこが不満だったんですかねぇ。馬鹿ですねぇ。あなたに愛されていれば、国はますます栄えて防衛戦もなんのそのだっていうのに」  とか浮かれ調子のまま、麻袋をひっつかんで様々なアイテムをぶち込んでいる。私は、つい面白くて凝視してしまった。 「小賢しい愛人に溺れて、あなたを魔女という建前で孤島の監獄に押し込んで、今度は暗殺ですよ。本当に、殺してやりましょう。それで、あなたと僕で新しい国を作りましょうね」 「ご機嫌ね」 「まあ、まずは脱出してみて、生き延びないといけないですけどね」 「……それは」  楽しくなってきたぁッ! 「待って。これも入れて。あ、これも、持って行きましょう。双眼鏡があるわ! コンパス──」 「真っ先に入れましたよ」 「予備よ。当然でしょ。はぐれたらどうしてくれるの」  仲良くアイテムを厳選して、私たちは倉庫を出た。  ずっしりと重い麻袋は、当然のようにラスムスが担いでいる。  私でも全然持てると思うけど、そこは男を立ててあげましょう。  夫の時は、それで失敗したし。  失敗から学ぶ私よ。 「元王妃!」 「ランツ?」  監獄長のランツが汗だくで駆けて来た。 「脱出用ボートの準備が整いました!」 「え!?」  協力者だったとは、驚き。  道理でラスムスが独房の石扉をさも当たり前のように開けるわけよ。 「閣下、元王妃と御達者で!」 「ありがとう。気持ちは嬉しいが僕の前で彼女を下に見るな」 「ハッ!」  え。  力関係、どうなってんの? 「行きましょう、僕の永遠の麗しのマッスル・マックス・マイラブ・イザベラ陛下!!」 「MMMIね」 「3MI脱獄作戦、開始!!」  襲撃されてるし、監獄長がボート手配してるから、脱獄って言えるかとても微妙だけどね。 「ええ、行くわよ! ラス!!」 「はぁい、陛下っ♪」  こうして私たちは、 「あんのクソ野郎ども! 俺の畑をぐちゃぐちゃに踏み荒らしやがって!! 殺してやるぅ~ッ!!」  とブチギレている監獄長ランツの怒号を聞きながら、ボートで脱出した。  さようなら、メガフロート監獄。  さようなら、トラモギ島。   「……」  数時間後。 「なんてこった!!」  太陽の下、波の上、ラスムスが漂流を宣言した。  私はますます燃えてきた。  面白くなってきたわ。
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