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広海くんの目には戸惑いのいろが現れていた。広海くんのお母さんは、にこやかに笑って私たちの前まで来る。
そこへ、私たちとそう変わらないくらいの年齢の男性が突然出てきた。
「母さん、お待たせ。あ、広海」
「兄さん……」
広海くんのお兄さんの直海くんだ。
広海くんに似た体型と、広海くんよりも柔らかな顔立ちのその人は確かに直海くん。直海くんに会うのも17年ぶりだけど、柔らかな雰囲気が懐かしく感じた。
直海くんはいつもニコニコしていて優しくて、私からしても頼れるお兄さんだった。
「これから広海のとこに行こうとしてたんだけど、出掛けていたんだ?」
「出掛けていたというか出掛けるとこなんだけどね。来るなら来ると連絡してくれたら、家で待っていたのに」
「だって、行くと行ったら断るだろ?」
「あー、まあ……そうかも……」
広海くんは言葉を詰まらせてお母さんとちらりと見る。直海くんは頭をかいて、広海くんの斜め後ろに立つ私に軽く会釈した。
私も同じように会釈する。
「はじめまして。広海の兄の直海といいます。もしかして、広海の彼女さんですか?」
「そう、彼女だけど、はじめましてじゃないよ。ね、紗世」
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