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私はしっかりと広海くんの目を見て無言ではあるけれど、伝えた。
彼にどこまで伝わったのかは不明だが、一瞬目を伏せてから真っ直ぐにおばさんを見る。
ハンカチで目元を押さえるおばさんの声は震えていた。
「その年の……誕生日に電話をしたんだけど、覚えてる?」
広海くんは首を横に振る。別れたのが夏休み前だったから、その年の誕生日というと別れてから二週間後くらいだ。
そうか、あの年の誕生日はもう家族四人で過ごせなかったんだ。
私も広海くんの誕生日にプレゼントをあげられなかったことを悲しんだけど、彼にとってはもっと悲しい誕生日だったに違いない。
「お父さんにお祝いが言いたいから替わって欲しいと伝えたんだけど、広海が嫌だ、出たくないと言っていると言われて……諦めたの。で、手紙を書いて出そうとしたんだけど、書いたものの出せなくて」
直接『おめでとう』と伝えたくても伝えられなく、手紙に思いを託したという。出せない手紙は一通、二通と溜まっていった。
もう二度と会えないと諦めながらも、いつか会えたらといいなという願いもあったという。
「父さんの葬式にも来なかったから、もう俺たちのことは忘れたいんだろうなと思った」
広海くんは苦しそうに顔を歪めた。
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