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「広海」と直海くんが落ち着いた声で呼ぶ。
「母さん、すごく悩んでいたんだよ。父さんが亡くなった日、広海のことをすごく心配していて一人にさせたくないと引き取ろうとしたんだよ。でも、広海にまた嫌だと言われたらと思うと出来なかったんだ」
書いても出せない手紙、伝わらない思い、すれ違う気持ち……。
一度離れてしまった家族がもとに戻ることはそう簡単なことではない。だけど、話せば伝わる。すれ違っていた心も交わる、
「そうか、俺は勝手に捨てられたと思い込んでいたのか」
「ううん、広海は悪くないのよ。お母さんが悪いの……ごめんなさい」
顔を両手で覆って泣くおばさんの背中に直海くんがそっと手を置く。
「母さん……」
直海くんと広海くんは見つめ合う。二人は本当に仲の良い兄弟で別れてからも連絡を取り合っていて、たまに会うこともあった。
兄弟としての絆は強い。
広海くんは大人になって、おばさんの気持ちを聞いた。彼は責めることはしない。苦しかったのは、自分だけではないと知ったから。
ずっと苦しんできたけれど、こうして心を開いたことでわだかまりは薄れていく。
広海くん手紙の入った箱を手に取る。
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