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飲みなれた缶コーヒーを眠気覚ましにすすった。けれど口寂しさは治まらない。
オメガとしての発情周期を終えて一年程度。体調がなんとなく悪い日々が続き、追い打ちをかけるように「離婚」だ。貯金を憂いて辞めたタバコが恋しく思えた。
「一箱いくらだっけ……」
指折り数える。以前吸っていた頃――つまり、大学生のころは二百円程度だったのだが――社会人になりどんどん値上げが進むし、買うのにも面倒くさい工程が増えていった。
デスクの下で検索をしてみれば、吸っていた銘柄は廃盤になっていた。スマホの画面をスクロールすると今の価格もわかった。
「たっ……か……」
カートンで買うと六千円。己の目を疑った。
どうりで最近煙草を吸う若者を見かけないわけだ。
「小路部門長」
「あ、どうしたんだ?」
不意打ちで声をかけられ、返事が裏返りそうになった。部下に察されないよう、スマホを内ポケットにしまい、しれっとした顔をする。
「一月のコンベンション、資料をまとめましたので目を通していただけませんか」
「分かった、確認しておく。あれだよね、展示会での実演ブース」
「その件について……」
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