4.独身3日目

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「『辞退させていただきます――』と申し出がございました」 数日後。朝イチの会議で、トンダ食堂側から出店を断られたと知った。ごくりと生唾をのみ、私は平静を装った。 「あら、あそこのキッチンカーよね? とても美味しいから私もイチオシだったのに。すごく残念」 「そうなんですよ、水戸さん」 「……なるほど」  自分は会議を取り仕切る立場、詳しく説明するなれば部門長であるため発言は慎重にならざる負えない。 ――そんなあ。なぜ断る? 比佐にとっても、いい話じゃないのか? 残業続きの余裕がない生活をしているせいもあって、あの日から、トンダ食堂の営業時間内に行くことができなかった。  家に帰ればベッドに倒れ込み、午前三時に夜食とも朝食ともつかない食事を摂るのがもはやルーティンになっている。  良くないと分かってはいても、離婚して独身に逆戻りしてからずっとこんな調子だった。 「じゃあ今のところ、実演はMホテルのシェフで検討しているってことでいいかな?」 「はい。でも私、もういちどトンダ食堂さんに掛け合ってみます」  若い女性社員が意気込んだ。
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