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残る一切れを睨みつける。衣の色は同じ。肉も……多分、いつもと同じ豚肉に見える。何か緑色の大葉が挟まっているわけでもなさそうだ。
どうしようか。全く、わからない。
気づいてほしいな、と分かりやすく期待の眼差しを向けられているが、無理、ムリだ。
「……肉が」
「うん」
「豚肉が、良いやつになってる」
最後の一切れを咀嚼して、顔を上げた。比佐は怪訝そうな顔をしていた。シャツの襟を引っ張りながら、不思議そうに小首を傾げられてしまう。
「カレー味なんだけど」
「……っ」
「もっと濃くしてみるね」
あ、やばい。時が完全に止まった。
ありがとね、と笑って比佐は頭を下げた。紙皿を捨て、公園からオフィスに戻る間に、スマホがポペンとまぬけな音を立てた。社内連絡ツールだ。
通知からチャットを開いた。差出人、そして一行に満たない内容を見て、スマホを持った手が震える。血の気がさあっと引いてゆく。
『小路部門長。至急第八会議室へ――』
第八会議室は、社長室の隣にあり普通の会議では使われない部屋だ。
『コンベンションに関することでご意見が来ている』
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