2.独身1日目

2/6
605人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
もちろん、弁当を持参したり社員食堂の素うどんを昼食にした方が経済的だ。だが私を含め、このエリアで働く人はキッチンカーによる移動販売を楽しんでいて、それによって東京でも随一のキッチンカー激戦区となっていた。  ぷらぷらと目ぼしい昼食がないかと探し歩く。  チキンカレー、から揚げ、プルコギ、クレープ、揚げパンに、メロンパン。  クレープは昼食に含まれるのか? 無意味な自問自答をする。  そんな中、 「えっちゃん」  と呼ぶ声がした。 はたと足を止める。聞き間違いだろうか? きょろきょろと周りを見渡した。  妻は、自分のことを英司さんと呼んでいた。  父母は、英司くん。  えっちゃんと呼ぶのは、近所に住んでいた年下のひーくん位だ。本名は何だっけ、思い出すことができない――。 「えっちゃん!」  白色のキッチンカーから、黒いシャツの青年が身を乗り出していた。  秋の風に青年の黒髪がそよぐ。涼しいひとえまぶた。その奥にある鳶色の瞳がはっきりと私を見つめている。  目が合ったとたん、十年以上も会っていなかったのに、青年がその幼馴染だということを、落雷にあったように思い出した。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!