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それから数日も経たないうちに、彼女は病により亡くなりました。表情はひどく柔らかく、医師によって楽に旅立ったのだと人々は泣きながら言いました。けれども医師の青年だけは知っています。彼女は自分に願いを託したから、安らかに旅立ったのだと。
小さな国を、医師は静かに去りました。やるべきことを、やらなくてはいけませんでした。彼女の秘密を知っているのは、自分だけです。彼女の願いを知っているのは、自分だけです。
「あの国には、極悪非道な令嬢がいてね。死んで当たり前の娘だったよ」
小さな国から少し離れた国で、医師は吹聴し始めました。
「冷酷で、心なんてものはない」
人々の命を救う旅の中、彼女の話をし続けました。
「人を人だと思っていない」
彼女の命を助けることはできませんでしたが、それでも自分にできることを精一杯。
「地獄におちて当然の娘だよ」
彼女の願いを聞いた、自分にしかできないことなのですから。
* * *
彼女の悪口を散々言いふらしたある日、医師の前に、天使が現れました。彼に医術を教えた師でもありました。
「それ、もういいよ」
天使は弟子に言います。
「彼女はどうなりましたか?」
ここまで精一杯やってきましたが、医師の青年は、不安で仕方がありませんでした。果たして自分は、彼女の願いを叶えられたのか、どうか。
天使の答えは。
「地獄におちたよ、あの娘は。そもそも、最初から地獄におとすかどうか、考えられていたんだ」
医師の青年は唖然としました。地獄におちたのはいいですが、どうして、最初から検討されていたのでしょうか。だって、彼女には悪いところは一つもないように思えましたから。彼女はいいところしかない、善良な娘だったはずです。
見透かした天使が笑います。
「あの娘は極悪人に恋をしたんだもの。それを罪と認めるかどうか、神様は悩まれたんだ……そこで、君の流した噂が、地獄行きを決めてくれたんだ。神様は人の心に敏感だ……」
おめでとう、と天使は拍手をしてくれました。医師は彼女の願いを、無事に叶えることができたのです。
「君がいなかったら、無理なことだったね」
それだけを報告しにきた天使は「それじゃあ、これからも皆の病を治しておくれよ」と空へ去っていってしまいました。
だから医師の青年は聞けませんでした。
最初から地獄に送るかどうか悩まれた彼女――それは神様から彼女へのプレゼントだったのか、完全なる裁きだったのか。
【終】
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