厄災の種

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 やつらは生きている。  隕石や文明の結晶ではなく、紛れもない生命体だ。  最初にやつらが降ってきたのは、まだ俺が生まれてもいない、三十年ほど前だ。  地球へ衝突するコースであったこと、大気圏では燃え尽きないサイズの隕石と誤認されていたことから世界の注目度は高く、落下時の映像も残っている。  しかし、公式の記録はそこまでだ。  そのあと、それがどのように処理されたかの記録を閲覧するには、それなりの権限と手続きが要る。  落下からほどなくして、やつらは芽を出した。  地面にめりこんだ種から飛び出した黄褐色の新芽は、ところどころに細い管を伸ばしながら成長した。恐るべき速度だった。  根とおぼしきものがうねり、ぎしぎしと不快な音を立てて背を伸ばすそれは、土や金属に近い質感で、地球上の植物とはまったく違うルーツをたどってきたであろうことが窺えた。  時のお偉いさん方が遠回りな議論をしている間に、やつらは更に動きを見せた。  灰色に水色を混ぜたような暗い色のガスが、細い管のそれぞれから噴き出したのだ。  その成分が猛毒であることを確認してようやく、地球側はやつらを明確な脅威と断定した。  相手の性質は植物に近いものであったから、明確な抵抗を受けることはなかったものの、完全に駆除しきるまでには、国家予算の数か月分が吹き飛ぶ激しいやりとりがあったらしい。  今でも、やつらが最初に降ってきた砂漠地帯は、完全に立ち入り禁止の、死の大地だ。  それからというもの、不定期に降ってくるようになってしまったやつらを、あの手この手で駆除しながら、様々な仮説が立てられ、研究が進められてきた。  地上で芽吹いてしまえば、大きな脅威となることが証明されているのだから、その研究の多くが、如何にして落下させないかに傾倒していったのも、自然な流れといえるだろう。  やつらがどこからやってくるのか、根本的な原因や解決策は見いだせないまま、人類は主戦場を大気圏の外側に据え、戦い続けている。
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