厄災の種

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 重力が恋しくなるのは、どんな時だろうか。  任務が長引いた時に、宇宙ステーションのカフェでよく出る話題のひとつだ。 「人類ってのはよ、地球に根を張ってるわけさ。だから、しばらく土から離れていりゃあ恋しくもなる。おお、母なる大地よってわけだな」 「出た、オーキッドのとんでも理論」  恍惚とした表情で祈るようなポーズを取る筋骨隆々の髭親父に、なるべく白い目を向ける。 「私はその考え方、嫌いじゃないですよ」 「エリザ、あんまり甘やかすな」  テーブルの向こうで、きちんと背筋を正して座るエリザに首を振った。  とはいえ、このとんでも理論は、個人的にも悪くないと思っている。  地球なのか、火星なのか、昨年から開発を始めたどこそこの星なのか。  根を張る大地に違いはあれど、人類とはきっと、そういう種なのだ。 「でもオーキッドさんの考え方からすると、やつらも地球に根を下ろしたがってるってことなんでしょうか? カケルさんはどう思います?」  エリザの一言で、ぴり、と空気が冷たくなる。視線が集まるのを感じ、少し声を大きくした。 「あのな。宇宙のどこかから降ってくるやつらと、人類とは違うだろ」 「そういうものでしょうか」 「もちろんだ。やつらのは立派な侵略で、それをさせないために俺たちがいる」 「俺はよ、侵略とは違うと思うね。あれは本能、つまりこいつは生存競争ってわけだな」 「そういう見方もあるかもな。根の深い問題だ。さて、今何時だ?」 「ステーションタイムで十五時まであと二十分です」 「そろそろか、新型のテストだって?」 「はい。今回はまた、色々ついているみたいですよ」 「資料には目を通したが、どうもな」 「気になる点でも?」 「レーザーとマシンガンの威力、薬品の粘度の向上あたりまではいい」  先に読んだ小難しい資料の中身を、なるべく簡単に整理する。 「照準ロック時の効果音と振動追加、単機での大気圏突入機能、カラーリングの光沢改善……研究所の連中にも、いよいよ休暇が必要なんじゃないか?」 「効果音とカラーリングはともかく、大気圏突入は素晴らしい技術では?」 「技術だけはな。無駄遣いもいいところだ。そこまでいってる時点で、任務は失敗してるだろうが。手前でなんとかするために金を使ってほしいね。お偉いさんのやることはどうにもずれてるんだよ、やってられるか」  口を尖らせつつ、のそのそと立ち上がった。  観点はずれているくせに、時間には厳しい。  一秒でも遅れれば、世界の命運を背負っている覚悟はあるのか、などと唾を飛ばしてくるに決まっている。 「やってられるかっつっても、大人しく訓練は受けるってわけだ? いい子ちゃんだな、リーダー」 「……たるんでいるぞ、オーキッド。世界の命運を背負っている覚悟はあるのか?」
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