生命の息吹

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生命の息吹

またはえている。 私は内心眉を顰める。これで何種類目だろうか。 植え付けた主は鳥だろうか風だろうか。 家の周りにはまた一つ、植物が、命が芽生え、繫栄している。 喜ぶべきなんだろうな…… しかし、いかんせん場所が悪い。 コンクリートを突き抜けて咲き乱れる草木。 植えるはずのない場所で芽吹き、 もはや人の手ではむしることのできない木になりつつある。 「植樹したという話は聞いていないな」 伐採するのも手間もかかるし忍びない。 しかしこのままにしておくとあっという間に大木になるだろう。 田舎とはいえ曲がりなりにもご近所あるし、車も通る。 (ある程度の間引きは必要だろうな) ため息しか出ない。 もっと林業のものが栄えていれば気軽に伐採を願い出るのに。 グチグチジメジメしていても仕方ない。 愛用の枝切りばさみをとりだす。 10年来の愛用品だ。 その都度手入れはしてきたつもりだが所詮素人の管理。 何年も樹木の伐採に使えば錆もするし切れ味も落ちる。 (変え時かなぁ。グリップもいい感じに手になじんでいるのに) 「よぅ。いつも大変だなぁ。いい加減こっちに戻ればいいものを」 「私はここが嫌いなの。何年たとうと若者増えやしないし、 さびれていくばかりじゃんか」 話しかけてきたのは小さい町の長老。 男性ながらもう腰も曲がり始めている。 私の記憶では70は過ぎたはずなんだが、外見は60過ぎの少し腰が曲がった老人という印象だ。 杖もついていないし、毎日どこかしら散歩しているらしく健脚だ。 それでも自然に派生した樹木にかかわらせるのは心配なのだ。 「健康そうでなによりだよ。爺。あと20年はぴんぴんしてそうだな」 私は都会で接客産業についている。 それでも田舎に戻ってくると口も悪くなるらしい。 まるで中学生の口調だが、爺はそんな私が生意気で気に入っているらしい。 年末年始、私の家の近くをとおっては色々世話をしたがる。 「婿はまだか、ひ孫を抱かせろ」と。 (大正や昭和じゃあるまいし、そううまくいくもんか) 美人なら貰い手もあるし、容姿がイマイチでも子供好きなら貰い手もあるだろう。しかしそれ以外の女には厳しく、世の中物好きはそうはない。 「そんな奇特な人ができたら完全に東京に住むさ」 田舎だ、遅れているといいつつも私は この土地のにおいが好きだ。 草のにおいと土のにおい。 ITが進んだ社会では土も埃も、ましてや枯れ葉舞い散る場所も用はない。 不要なものでも私はまだ切り捨てられずに入りびたる。 難儀なものだ。 「加減してやれよぉ。お前が来た後は情緒のかけらもなくなってんだ」 「帰れる日は決まってんだ。加減したら道が通れなくなるだろが」 カチカチと愛用の鋏を鳴らしながら新入りの草木たちに樹木に近づいた。
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