銀白の杖と召使い

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「銀が少し剥がれてしまいましたわ。純銀は高価ですし、やはり、火系統の魔法は使いたくありませんわね」 「仕留めなくてよかったのですか?」 「あんな獣たちに与える魔法など、あれで十分です。それよりも先を急ぎますわよ」  お嬢様は逃げ去った狼たちには目もくれず、杖をベルト脇に納め、早々とその場を立ちさってしまう。  俺は、本当に大丈夫か? と狼が逃げ去った方向をチラチラと振り返った。 「うーん、どこに行ったかくらいは知っておいたほうがいいのでは?」 と、俺が意見しようとしたところを、お嬢様は制する。 「ウィル。世の中には施す者と、施される者で成り立っているのです。幼いころからの付き合いとはいえど、あなたはわたくしの召使いであり、施される側。わたくしの命令に従いなさい。よろしくて?」  俺は主人の命令に対し、機嫌を損ねないよう渋々と返事をする。  そこからの流れは、いたってシンプルだった。  凶暴な獣たちと出会うことは特になく、淡々と目的地までのルートを進んでいく。 「ウィル、この森に潜んでいるのはどんな輩なのかしら?」 「人型の巨大生物が一体、確認されていますね。森の木々と同じくらいの体長だそうで、おそらく十メートルほどでしょう。なんでも、花畑に出没するとか」 「花畑? 草食ですの?」 「さあ、そこまでは。目撃者曰く、確認したのはシルエットのみのようです」 「まあ構いませんわ。どのみち、その魔物一体を倒したら解決なのですから」 「そんな楽観主義で大丈夫ですか? 相手は魔物ですよ? おまけにさっきの狼たちだってわざと逃がしちゃうし。いつ襲われるかなんてわかったもんじゃない」 「怖いなら帰りなさい。足手まといは、連れて行かないに越したことはありませんわ」 「ここまで来てそれはないでしょう。それに、俺だって戦えます」 「軟弱なくせに、見栄なんか張って大変ですわね。持ってきた武器も、金メッキを塗ったナイフだったかしら? 馬子にも衣装とはこのことです」 「お嬢様が早熟しすぎなんですよ。それに、俺はお嬢様の召使いとして、その肩書きに恥じぬ格好がしたかっただけです。お嬢様は昔から優秀で、いまや高名な方ですから」  お嬢様は、銀から魔力を抽出することに秀でた天才だ。   銀は魔力を内包するとされる金属であり、吸血鬼や狼男といった魔物の弱点として知られている。  それを有効的に使えるのだから、強いのは当然ともいえた。 「だからといって、主人より目立つ色を塗る召使いがどこにいますか。どうせ塗るなら銀色にしたらどうです? わたくしのイメージカラーですわ」 「それが賢明ですね。今回の任務が終わったら、塗り直してきます」  お嬢様がやれやれ、と首を横に振る。 「先が思いやられますわね。わたくしもあなたも、かれこれ十八になるのですわよ? それなのに、魔法を一つも覚えてこないだなんて」 「俺は医学が学びたかった。それ以外に理由が必要ですか?」 「父親同様、時代遅れな科学のほうを学ぶなんてね。わたくしみたく、魔法学を学んでいれば、もっと強くなれたのではなくて? 傷の手当ても、回復魔法で治すほうが手っ取り早いはずですわ。ほんと、ウィルは父親同様に変わり者ですわね」 「しかし大旦那様は、そんな変わり者の父さんをお抱えの医師として雇ってくださいましたよ?」 「お父様が悪趣味なだけですわ。あの好奇心には、娘の私でもお手上げです」 「子どもは親に似るものですねえ」 「誰が悪趣味ですって?」 「俺の話です」  そんな他愛もない雑談に区切りがつく頃、俺たちは目的の場所へとたどり着いた。
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