彼女は恋をした

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 佐良は一人で夕暮れの通りを歩いていた。何人もの人が忙しそうに行き交っている。  後ろから走ってきた制服姿の向日葵が追い越してから、ちらりと世良を見て立ち止まる。 「あの」  向日葵は慌てて走ってきたらしく、はあはあと息を継いでいる。 「ん?」 「佐良君?」 「ん?」 「佐良君でしょ?」 「うん」 「ちょっと話したいことがあるんだけど」  佐良は戸惑ったように向日葵を見つめている。 「私、サッカー部のマネージャーをしている津川」 「知ってるよ。サッカー部のマネージャーは綺麗どころが揃っているって評判だから」  向日葵は佐良と並んで歩く。 「サッカー部には入らないの?」 「サッカー? 俺、運動は苦手だから」 「うそ」 「ん?」 「この前ボールを取ってくれた時のこと、覚えている?」 「さあ」 「佐良君、去年まで静岡県にいたんじゃない?」 「そうだよ」 「加砂越高校」  佐良、前を見たまま、ふっと表情を変える。 「サッカーをしたくないの?」 「俺はサッカーとは無縁の男だよ」 「うそ。私、去年静岡で」 「俺、家こっちだから」  そう言って佐良は角を曲がり、足早に去っていく。  向日葵はそこに立ったまま世良の背中を見ていた。  次の日、向日葵は数人の友達と廊下を歩いていた。  わいわいと騒ぎなら男子生徒たちが前からやってくる。その中に佐良の姿を認め、向日葵は顔を伏せた。そして通り過ぎて行った佐良の後ろ姿を振り向いて見る。  そんな向日葵を、遠くから寂しそうな目をして吉本が見ていた。 「そういえば、お前んとこのマネージャー、昨日、男と歩いていたって話だぜ」  宮下が吉本に言った。 「えー、誰だ? 遥ちゃんか? 向日葵ちゃんか? 優花ちゃんか?」  宮下の言葉に、一緒に歩いていた加藤が反応した。 「髪が長い子だとか言ってたけど」 「じゃ、向日葵ちゃんだ。くっそー、相手は誰だ」 「お前、詳しいな」  宮下が感心したように言う。 「うるせーな」  二人の会話を遮るように吉本が言った。その真剣な表情に、宮下と加藤は言葉を失う。 「どうした」  しばらく間をおいて宮下が尋ねた。 「いや、悪い」  そう言って吉本は黙り込んだ。
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