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All of I ask you
踏みこんだ質問をされることは
想定内であっても、言い辛さは
変わらない。焦らすように彼女は俯く。
「…はっきりとした期間は分かりません。
でも、…もっと、ずっと長い、と思う」
無言のまま、喜多は話の続きを待った。
「ふぅさんの考えている通り、です。
契機は子どものこと。さっきの、
妊娠したかもしれないっていう話の…」
「出来ていないと伝えた、それから?」
膝下の長い脚を、喜多は組み替えた。
あかりの沈黙に再び支配される。
彼女が言い淀むことは理解している。
「最初は気づかなくて…身体のことを
心配してくれて、いつも優しかったから」
元々、お姫さまのように扱っていただろう?
と喜多は、胸の内で思い返す。彼らの入籍前
何度かあった逢瀬の中で聞いた話は、どれも
蒔田祥眞という男が、彼女に寄せる愛情の
強さ、大きさ、広さを感じさせるものだった。
「そのうちに…わかってきたの。
言動は変わらないけれど、彼は
とても酷い勘違いをしているって…」
一文字、一文字を区切って、
発音を強調するように、聴き返す。
「ひ ど い ?」
「堕した…彼の出張中に、内緒で手術を
受けて、彼の子供の命を流した、って」
「ありえない。あかりが、そんなこと」
彼女の言葉を遮るように喜多は口を挟む。
言葉を信頼の証にするのは軽率だが、
それでもやはり、喜多の、その言葉に
あかりの心が救われたのは確かだった。
「あの男は…生真面目で完璧主義で
あかりへの愛情が真っ当に重い。
そこが良いんだが、どうも零百の
傾向があるな、さっきの様子でも」
あかりの夫のことを、彼女と自分が
本人不在のところで、貶めるように
言い表すしたりすべきではない、と
思い至り、喜多は口を閉じる。
法的社会的にどうかということではない。
人道的な、人間の廉恥心に悖るからだ。
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