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操演
エンドロールが流れ、スクリーンの幕が閉じられる。
「皆様、本日は記念試写会に起こしいただきまことにありがとうございます。それでは早速、キャストの皆さんにご登壇いただきましょう。盛大な拍手でお迎えください!」
フォーマルな衣装に身を包んだ司会者に促されて、着飾った俳優陣がぞろぞろとステージに上がった。その一番後ろに、ジーンズにTシャツというラフな格好をした監督が続く。
「まずは春日監督、この度はヴェネツィア国際映画祭の受賞おめでとうございます! カンヌ、ベルリンと続いて今作で遂に三大映画祭を制覇したことになります。まずは感想を一言、お願いします」
「えー、これも一重に、ここにお集まりの皆さんをはじめ、いつも応援し、さらに支えてくれる人たちのおかげだと思っています。まずはこの場をお借りして、感謝申し上げます」
「特に、オープニングから十分以上に渡って続く暗闇のシーンは世界的にも非常に高い評価を受けていると聞いています。どのような苦労や工夫があったか、お聞かせ願えませんか?」
「それはもう僕に聞くよりも、操演の高柳君あっての賜物だと思っていますので。何よりも今回は、高柳君と組めた事で作品のクオリティーが格段に向上したと考えています。高柳君目当てでいくつかテレビ局さんや雑誌社さんも密着で取材に入ったりしていましたから、詳しくはそちらをご覧になってください」
「後のお楽しみ、というわけですね。それでは続けて、主演の郷原さんについて伺っていきたいのですが……」
壇上には見当たらない高柳の名に観衆が興味を示したのがわかって、私の胸は誇らしい想いで満たされた。
本作において操演を担当した高柳の名は、監督の春日や主演の郷原に並んで……いやそれ以上に世界中に鳴り響いたのだから。
彼もきっと、舞台袖かどこかで、このやり取りを聞いていた事だろう。いや、もしかしたら今もまだ、密着のカメラでも向けられているのかもしれない。
――十分以上に渡って続く暗闇のシーン、か……。
私はそっと目を閉じ、胸の奥に大事にしまっている遠い昔の記憶を辿る。
操演家高柳拓実が生まれるきっかけになった、あの頃に――。
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