第六章 親子

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第六章 親子

 百合子が目覚めたのは病院のベットの上であった。  夫が心配そうに顔を覗き込んでいる。  私、生きてる‥? 「目が覚めたんだね‥良かった‥」  夫は泣いていた。  夫の泣く顔など初めて見た。  百合子の手を握ると、 「ごめん、百合子。 百合子を追い詰めてしまって。 本当に反省している。 辛い思いをさせてごめん、もうしない。 許してくれ。」 と謝った。  あまりにも真剣な顔で謝るので、 百合子は吹き出してしまった。  夫は驚いた顔をして百合子を見た。 ボーっとしていた頭が急にスッと現実に戻った。 「姫乃は!?姫乃は無事!?」  そうだ!  姫乃が助けてくれたのだ!  姫乃はどうしたの!?  自分より大きい百合子をひきづって大丈夫だったのだろうか?  お腹の傷、大丈夫だっただろうか? 「無事だけどお前が入院してから餌あげても食べないし、元気がないんだ。」  良かった‥無事だったんだ。  百合子が気を失ったあと、姫乃が近所の人に知らせて、彼らが駆けつけて救急車を呼んだらしい。  そのあと病院から夫に連絡があって駆けつけて来たようだ。  夫が姫乃の世話をしている。  拓実、変わったな。  それにしても、 姫乃はどうして助けてくれたのだろう。  吐いた時に助けてあげたのがよほど嬉しかったのだろうか。  たったあれだけのことで。  こんなダメな自分を守ってくれたなんて。  自分を捨てようとしていた親を。  目頭が熱くなった。  一週間ほどで退院出来た。  待ち遠しかった。  玄関を開けると、姫乃が尻尾を千切れんばかりに振って百合子の胸に飛び込んで来た。  姫乃はジッと百合子を見つめてくれている。  百合子は姫乃を抱きしめた。  この子は紛れもなく私の娘。 「ありがと、ヒメちゃん」  その晩、百合子は姫乃と一緒に寝た。  そして、百合子の腕の中で眠った姫乃に言った。 「2人とも元気になったらまた散歩に行こうね。 それと、約束して‥」  姫乃の耳にボソボソと囁いた。  そして姫乃の寝顔にキスをした。
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