4 幼馴染2

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4 幼馴染2

虎鉄は小学生時代は小中高と野球部に所属した根っからの体育会系。片や千雪は静かに本を読んで静かに考え事をしているのが好きな文学系。真逆の二人だが、就学前から1番気の合う、幼馴染同士だ。  とくに虎徹は昔から身体の弱い千雪をこんなふうにべたべたと構い倒してきて、19歳になった今も一向にやめる気配がないようだ。 「虎鉄、髪の毛伸びたな。何この髪型? 読モ風? 色気づきやがって」  虎鉄のお洒落なツーブロックに整えられた黒髪は艶やかで、猫っ毛で色素の薄い髪を持つ千雪とは真逆でそれにも嫉妬してしまう。 「部活引退してからもう大分たつからな。結構伸びた。義姉さんが切ってくれるから髪型はお任せだ」  虎鉄は野球をしている間はずっと坊主に近い頭だった。キャプテンでキャッチャーという堅いポジションにもかかわらず、端整な顔立ちと面倒見の良くさりげなく優しいところに目を付けた女生徒からモテにモテていた。髪型に気を使うようになってからは容姿がさらに際立ち、上背もあり鍛え抜かれた恵まれた体格も相まって卒業前までに沢山の女子に告白されていたようだ。しかしいくら告白されても彼女を作ろうとしない。 「いいよな、お前はそういう髪型似合うから」 「千雪の髪こそ綺麗だ。染めてなくても日に透かすと金色にきらきらして、触り心地もいい」 「うわ、ぐしゃぐしゃにすんなよ」 「寝起きで乱れてたのを直してやったんだ」  大きな掌が再び千雪の頭の上にのせられ、それを振り払おうとする千雪との間でまるで猫の喧嘩のようなじゃれ合いが起こり、千雪はまたちょっとそわそわした気持ちになった。 (くっそ、また触ってくる)  高校を卒業したこの春から。こんなふうに戯れのようにじゃれついて幼馴染の男である千雪にちょっかいをかけてくることに遠慮が無くなったから質が悪い。 昔から千雪が貧血で倒れたとみたら、隣のクラスの最後尾に並んでいてもすぐに感づいてヒーローよろしく駆けつけ、ふらふらする千雪を背負って保健室に運んでくれた。  雄々しく千雪を護る虎鉄の姿はまるで王子か騎士様、千雪を名前をもじって白雪姫なんてヤジってくるものもいたから、千雪は体調が戻って教室に帰るたび、気恥ずかしくて仕方なかった。  頻繁に女の子に間違えられた華奢だった幼い頃ならいざ知らず、今では背丈は虎鉄よりは一回り小さいが170は超えている。流石に「病弱な美少女」然とした幼い頃とはもう違う、いっぱしの男だと自分では思っている。  虎鉄もバイトに勉強に何かと忙しいのだから放っておいてくれと何度も言ったのだが、千雪の母からも頼まれているからとか何だかんだと理由をつけていつでも気がつけば傍にいる。  その上今みたいにまるで恋人同士のように今も隙あらば髪を撫ぜ唇を寄せてくるから、半分日本人出ない血の入った千雪より、よほど外国人のようなスキンシップの多さだと思う。 「そこに千雪の綺麗な唇があったら、触れたくなるのはしょうがないだろ?」 冗談なのか本気なのか判じがたい声色。千雪は直線的ですんなりした眉と同じ角度に猫のようにまん丸で西洋の血の色濃いヘーゼル色の大きな目を釣り上げた。 「なにいってんの? はっずい! 俺にばっか構ってないで、早く彼女作って幼馴染離れしろよ」  虎鉄が彼女を作る。内心そんなこと望んでいないのに、千雪はわざとそんな風に言って虎鉄の心を試すように突き放すと、日頃は陽の光が良く似合う虎鉄の精悍な顔立ちに少しだけ蔭がさした。
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