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8 巡る血潮
さながら極上の美酒のように、顔がほてり身体が熱く燃え上がる。涙が伝う頬に血の気が戻り、艶めかしく色づく唇からは乱れた吐息が零れ続けて満足げな顔をした虎鉄の耳を打つ。
「美味いか?」
「んっ……。おいしぃよお。虎鉄の、すごく濃いのっ」
「沢山飲めよ? もっとトロットロに、酔っぱらった顔みせろよ。あぁ、可愛い。好きなだけ飲み干せ! 」
欲望に掠れた声でそう囁かれ、大きな掌がすでに緩められていたズボンの中に荒々しく差し入れられる。シャツはついに頭から全て剥ぎ取られ、しっとりと汗がにじんだ薄い腹から胸を大きな熱い掌がまさぐる。
「んっ。んん」
赤子が懸命に乳を吸うように、んっくんっくと夢中で肩口に吸いつく千雪の頬は血の気を帯び幸福気に薔薇色に染まる。虎鉄は肩口に喰いついたまま離れぬ千雪の細腰を抱えながら鍛えた身体で軽々と起き上がり、ジャージのズボンを押し上げていた猛り切った自らも取り出すと互いの高ぶりを大きな掌で諸共に摺り上げた。
「ああっ……」
飲み込み切れぬ虎鉄の血と共に口元から嬌声を迸らせ、それでも貪ることを止めぬ千雪の熱く細い身体に片腕を回して虎鉄にぎゅっと抱きしめられる。言いようのない安堵感を得て、千雪は虎鉄の頑強な肩にほっそりと白い二の腕を投げ出すと、涙が端に残る大きな瞳をうっとりと閉じた。
「千雪、気持ちいい? うまいか?」
「んンっ」
「ほらもう、限界だったんだろ? 意地張ってないでそう、素直に俺を欲しがればいいんだっ」
苦しいだけでない色っぽい喘鳴を喉元でたて、それでも貪欲に血潮を啜る千雪はふるふる首を振りながらも吸血をやめることができない。涙が目の端から伝い落ち、切なげな顔をして一度顔を肩口から離すと、潤んだ上目遣いに虎鉄の顔を見上げてきた。
「……」
「千雪?」
「ご、ごめんね」
幼子のように舌っ足らずに呟いて、虎徹の真っ赤な血で染る唇をふるわせて涙声で詫びてしまう。そのくせ腰は淫らに動かしながら細い腕を虎鉄の首に絡ませて夢中でぺろぺろと舐めとる。千雪の唾液には父ほどの即効性はないが、治癒を促す効果があるから、すぐにでも虎鉄の傷を癒し血を止めようと健気に舐めてしまう。しかしその柔らかな舌先の刺激に虎鉄自身はさらに腹につくほど高まりが収まらない。
「まだ欲しいんだろ? もっと飲めよ」
「だめ、虎鉄が、い、痛いから……」
「痛くない。千雪が舐めるとじんじんして、熱くてすごく気持ちいいよ? だから千雪も、俺にくれ」
虎鉄は息を弾ませた激しい口調とは裏腹に、懇願ともいうべき優しい口づけを千雪の柔らかな唇に落として囁いた。
「俺も千雪を、食べたい」
「……いいよっ。虎鉄も、早く、俺を、食べて」
その答えを聞き、虎鉄は喉元をぐっと鳴らすと待っていましたとばかりに、虎鉄は千雪を白いシーツの上に押し倒す。長い腕で枕元にある祖父の文机の引き出しを漁ると、中から取り出したコンドームを荒々しく犬歯で千切ぎり開封した。千雪を見おろしてくる虎鉄の、雄っぽい表情には爽やかな野球少年の面影は微塵も感じられない。日頃真っ白な顔を桃色に上気させ、千雪は赤い唇を震わせて物欲しげに虎鉄を仰ぎ見た。
目が合うと虎鉄が飢えていてもどこか満足げな視線で見つめ返してくるから、かつて一度虎鉄をうけいれたことのある蜜壺がひくりとなるのを感じ、千雪は「あんっ」と小さく喘ぐ。
「たまんねぇ声……。千雪。食いたい」
虎鉄はすでに痛みを覚えるほど天を衝く自らをそのままに一度荒い呼吸を整えながら、引き出しから共に取り出したローションのぬめりを指に絡ませ、彼の慎ましい秘所に太い指を気ぜわし気に差し入れた。
ぐちゅぐちゅとした音を立てながら、千雪の唇も奪うと、千雪は反射的にまだ残る血の味を味わいたがって赤い舌を懸命に伸ばしてそれを受け入れる。柔らかく滑らかな舌を味わうように虎鉄は擦り合わせ血の混じった唾液を千雪の喉に注ぎ込むと、ごくりと音を立てて千雪はそれを飲み込み小さく身体を震わせた。
「ひうっ……」
冬以来その場所に触れたことのない千雪は、無意識に腰が引けるが虎鉄はあやすように、片手で千雪の自身を摺り上げながら、虎鉄は興奮しきりはやる気持ちを吐息で逃すようにはあはあと息つきもらす。千雪に少しも痛みを与えたくない気持ちと今すぐ押し入り奥の奥まで犯したい衝動の両方に苛まれながら、虎鉄は再び唇を噛みしめ血を滴らせた。
迸しる赤い雫を舌を懸命に伸ばして千雪が仔犬のように夢中で舐めとると、その間に本数を増やした指の腹で千雪がすすり泣くほど善い場所を探して押し当てる。
「ひうっ!」
「ごめんな……。ちょっと間が空いたからきっついよな。千雪のココ、俺の指をきゅうきゅう、痛いぐらい食ってくる」
「い、いうな、ひやあ!」
千雪の雄の部分も大きな掌で全て包み込まれてしごかれ、白い喉をまだ明るい日差しの下晒すようにのけ反ると、昼日中に階下にはまだ母や常連客がいるという背徳的な状況すら脳裏から吹き飛ぶほどの圧倒的な快感が身体中を駆けのぼった。
「で、出ちゃう、だめぇ、手ぇとめて!!!」
「いいぞ、いけよ」
「ああああんっ!」
ほどなくして愛らしい嬌声を上げつつ、腰を反らし果てた千雪は自らを解き放ちながら、後ろでは虎鉄の指をかみ切らんばかりに喰い締める。指が伝える色っぽい脈動に、虎鉄はうっそりと余裕なく微笑んだ。
「中、痙攣してる。千雪どっちでもいったの?」
千雪はそんな揶揄いの言葉に恥ずかしさも感じる余裕すらなく瞳を伏せてくくたっと布団の上に寝転んだまま動けない。まだ呼吸が整わず、細い腰がさらに折れそうなほどにへこんだり上がったりする様子が艶美で虎鉄は目を奪われた。白く薄い腹に千雪の白い胸に自らの残滓を散らした千雪は艶めかしく、焦るな逸るなと思いながらも興奮を煽られる。虎鉄は獲物を前に舌なめずりする獣の表情で千雪を見おろした。
「千雪、綺麗だ」
もはや欲を抑えきれず、いいしな逞しい背で覆いかぶさると、ずっしりと重く血管が浮き出た自らを千雪漸く綻んだ蕾に教えてる。千雪が気だるげに長い睫毛をそよがせてうっすら瞳を開きかけるのと、虎鉄が一気に千雪を貫くことが同時に起こった。
「ああああ!!!」
いったばかりの身体は敏感で、再び痙攣して喉の奥でひっきりなしに短く悲鳴に近い吐息を漏らす。それすら更なる欲を煽り、虎鉄は最早千雪のことを優先できる余裕すら失って細い脚を片方肩に担ぎ上げると、一心不乱に腰を振り始めた。
「あ、あ、あ、あああ」
「千雪、俺だけだよな? 俺だけだって言え。血を啜るのも、身体を暴くのを許すのも、俺だけだって。ずっと、一生、俺だけだって、言えよ」
「ひあああ」
「俺の血が欲しいだけだってかまわない。お前に求められるなら、なんだってくれてやる」
(俺も、大好き。欲しいよ。虎鉄の心も、身体も、その血も、全部)
千雪だって思いのたけをぶつけかえしたかったけれど、挿入の勢いで再び達してしまい、揺さぶられる衝撃の強さに口からは嬌声ばかりが迸ってばかりで言葉が紡ぐ前に霧散してしまう有様だ。
「千雪、好きだ。一生、愛してる」
『俺も好き』と言葉にできず、こくこくっと必死で頷いたけれど、虎鉄に伝わったのかは分からない。ただひたすらに、今が昼間で祖父の部屋で下には母や客たちがいて、そんなことすら頭から抜け落ちてもう虎鉄の刻む激しいリズムについていくことがやっとだった。身体を巡る虎鉄の力強い血のおかげで身体はいつになく温かく力が腹の底から漲ってくるのを感じてはいたが、それと攻め苛まれるこの猛攻を受け続ける神経をそのまま直になぞられるような快感に耐えられるのはまた別の問題だったようだ。千雪は中々果てることなく激しく腰を使う虎鉄を前に完敗し、意識を手放した。
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