芽生えの呪文

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 Aは、そんな自分が好きなだけなんですよ。人の気持ちを考えているようで、ちっとも考えていない。自分自分自分。  嫌いだなあ、って。  わたしAさんのこと嫌いだなあって、その時に思ったんです。  なにか、どろっとした黒いねばねばしたものが、自分の心の内側に膜を張ったような、そんな気分でした。  放課後になるとクラスの女生徒が数名わたしの周りに集まってきて、ひそひそ声で言うんです。 「災難だったね」 「Aちゃんて、ちょっとめんどくさいよね」 「正義の味方面してるけど、あんなのただの自己満でしょ」  ぽとり、ぽとりと、心の中に黒い水が溜まっていくようでした。男子にはわからないかもしれませんが、女性というものは悪口を言い合うことで仲良くなったりするものなんです。それだけ腹を割っている、気持ちをごまかしていないという証拠ですから。こっそりと黒い部分を共有し合うことで信頼を得るとでもいいましょうか。
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