芽生えの呪文

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 どっちの言い分もある意味、正しいですよね。でも、たかがプリン一個じゃないですか。その男子にあげればそれでまるくおさまるものを、Aは頑として譲りませんでした。それどころかAは、わたしにまでお説教をしてきたのです。 「天利さんがそうやって男子を甘やかすと、女子みんながなめられるんだからね! 嫌なものはハッキリ嫌って言わないとダメよ。本当はプリン食べたかったんでしょう?」  なんといいますか……わたしは別に甘やかしたわけでも妥協したわけでもなくて、まあいいかと空気を読んで、その場が一番まるくおさまる形をとろうとしただけなんです。男子だからとかではなくて、その男の子が癇癪もちだということも知っていましたし、みんなよりも少しばかり知能が足りていないことも感じとっていました。だから、弟に譲る感覚でプリンをあげようとしたわけです。  そもそも、わたしのプリンじゃないですか。本当は食べたかったのだとしても、わたしが「いいよ」って言ってるんだからいいじゃないですか。それをAは、さもあなたのためみたいな顔をしていましたけれど、要は自分がそれを許せないだけなんですよね。公平でないことが許せない。ハッキリと言い返さないわたしが許せない。そしてそれを黙って見ていることも許せない。
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