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わたしはとても気分が良かったです。ああ、わたしだけじゃなかった。みんなAのことが嫌いなんだなって安心感すら覚えました。その時に誰かが言ったんです。
芽生えの呪文をやろうよ、って──。
わたしたちは学校の裏山へと向かいました。小さな山ですけど、呪文を唱える場所としては最適だと思ったからです。大きな木を取り囲むようにして立ち、わたしたちは「せーの」で呪文を唱えはじめました。
ちょうど夏から秋に入る直前で、裏山には適度に風が吹いていました。目を閉じて大きく口を開けていると、清涼な空気が流れこんできて気持ちが良かったです。わたしの願いは──Aが静かになったらいいのになという、非常に曖昧なものでした。頭の中に、なぜかAが糸で口を縫われて喋れなくなっている絵が浮かんできて、なにかがぬるっとわたしの口に入ってきました。
驚いて目を開けた時にはもう、その感覚はなくなっていて、気のせいだと思い込もうとしました。気のせい、あるいは小さな虫でも入ってきたんだろうと。
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