心の色

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佐々木氏の家を出て、役所に戻ったマサルと葉子は終業までの一時間をデスク作業で過ごした。 「どうかした?顔色が悪いみたい」 隣の森本さんが声をかけてくる。 葉子は作り笑いをして、 「いえ、別になんでもないですよ」 「でも、服装もいつもと違うし、それに・・どこか穴にでも落ちた?」 「え?はい、ちょっと転んじゃって」 「毎日、外歩きは大変だよね。たまには替わってあげてもいいよ。最近はどこでも車椅子で移動出来るんだよね。ほら、松原市に出来たセブンパーク、柳さんは行ったことある?」 森本さんがおしゃべりを始めると、庭代さんはいつも知らんぷり。今だって何もなかった顔をして。そういや庭代さん、本当に堺東の居酒屋には行かないつもりかしら、などと葉子が思っていると、終業を知らせるチャイムが鳴った。 じゃあ、お疲れ!と出ていく庭代さんに続いて、 「今日はもうクタクタですから、帰ります。お疲れ様です」 と、葉子も立ち上がった。 役所の裏にある自転車置場でマイ自転車を引っ張り出していると、葉子は今夜はひとりなのを思い出した。両親は今朝、箕面温泉に一泊旅行に出掛けたんだった。 普段、家族と暮らしていると、一人きりで家にいるのはちょっと心細い。特に今日は怖い思いをしたところなのだ。 どうしよう、家に帰りたくないな、と葉子は思った。 ( 美奈にラインしようかな。でも最近、どうも付き合いが悪い。新しい恋人とうまくやってるのね ) などと考えていると、ふと宮下さんのことを思い出した。 ( この間の電話は変だった。美奈と何があったのかしら。どっちが本当の彼なのかな。その辺のことを聞いてみてもいいな。ついでに今日のこと、話してみるといいかも ) 宮下さんの電話番号は履歴から調べることが出来た。彼は全然大丈夫、問題ないです!との返事だった。
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